
みどり製菓株式会社の創業は1959年。寒天と砂糖を用いた「高級半生菓子(はんなまがし)」製造の老舗だ。2019年に3代目翠大輔さんが着手したのは、同社の技術を詰め込んだ「これぞ大阪土産!」と呼べる新商品の開発だった。
ダジャレ好きな翠さんが考案したのは、わらび餅とカステラを掛け合わせた『大阪銘菓みすたぁわらかす』。「笑かす」と掛けたネーミングはいかにも大阪らしいが、味は本格、販売戦略も大真面目。売り先は道頓堀などの観光地だけでなく、大阪の玄関口である空港や新幹線の土産物屋など言わば「一等地」での展開を目標に掲げた。「商品には自信がありましたが販路は未開拓。とにかく商品を持って足を使いました」。営業はもちろん、初めてのプレスリリース発信や記者クラブへの持ち込みや試食販売……。翠さんの情熱と商品のユニークさが評判となり、発売初年度から主要ターミナルでの取り扱いが決定。メディアにも頻繁に取り上げられるなど順風満帆な滑り出しを見せた。

「しかし、初年度からキャパいっぱいでした」。
ヒットの喜びの裏で、直面した課題。それは社内にオーブンが1台しかなく、増え続ける注文に対して一向に生産が追いつかないことだった。本業の半生菓子製造も重なり、従業員の労働時間は長時間化。現場の負担増は避けられない状況になりつつあった。
その一方で、大阪・関西万博が追い風となり商品の需要はさらに増大。「取り扱い希望の問い合わせに生産が追い付かず、泣く泣くお断りしたことも数え切れません。」
大阪土産の定番として、より安定して商品を作り続ける責任がある。そう考えた翠さんが 『令和7年度新事業展開テイクオフ支援』の補助金を活用して導入したのが新型のデッキオーブンだ。これにより生産性は一気に200%へと向上。
しかし、翠さんは闇雲に事業拡大を目指すわけではないと語る。「僕たちは設備や工場をどんどん増やして売上増大!ということは考えていません。今ある環境や人材を活かし効率を上げることで、従業員もみんなが幸せに働ける会社にしたいんです」。
この設備投資は思わぬチャンスも引き寄せた。新幹線改札内で1ヶ月間にわたる試食販売のオファーだ。改札外の土産物屋には発売当初より商品が取り扱われている一方、改札内には参入しておらず、発売から6年越しのチャンスだった。「従業員への負担を思うと、このオーブンがなければ引き受けられなかったかもしれません」。
翠さんの願いは、『大阪銘菓みすたぁわらかす』が「大阪で愛され続けるお菓子」として多くの人に知れ渡り、親しまれていくことだ。みどり製菓の従業員が「これウチで作ってて、自分が焼いてるねん」。そんなふうに誇れる商品を、自分たちの身の丈に合った形で丁寧に届けていきたいと語る。

また、今年度よりテイクオフに新設された『生産性向上枠』について「この枠の存在意義は極めて大きい」と語る翠さん。数百万~数千万円する業務用機械の更新は中小企業にとって死活問題であり、買い替えができずに廃業を選ぶケースも少なくないのが実情だ。そんな状況において、補助金が背中を押してくれたことで踏み出せる一歩があるのだという。
続く翠さんの言葉には、事業者支援のあり方への重要な示唆が含まれている。「100万円もらえるから何かしようではなく、ずっとやりたかったことの負担を少し軽くしてくれるから、未来へ投資してみる。それが補助金の本来の姿なのではないでしょうか」。
中小企業支援は今、事業を離陸させる「テイクオフ」の段階から、自走する事業者の背中を後押しする「プッシュオン」の局面へと、新たな一歩を踏み出しているのではないだろうか。
みどり製菓株式会社
代表者:翠 紀雄
所在地:大阪市東住吉区東田辺3-2-2 TEL:06-6691-6186
事業内容:菓子製造業
webサイト:https://www.midoriseika.com/
『WORDS:3 -大阪で新事業展開に挑む人のことばを集めたインタビューと活動報告集-』
発行元 | 大阪府商工労働部中小企業支援室経営支援課
発行日 | 2026年3月10日
プロデュース | 枡谷郷史、足立哲、大内涼加、西尾和倫(大阪産業局)
企画・取材・記事・デザイン| 古島佑起(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
プロジェクトマネジメント | 吉原芙美(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)

