
1948年にカーテンフックの町工場として創業し、ライフスタイルカンパニーへと事業領域を拡大してきた株式会社友安製作所。
現在は、通販・カフェ・工務店・メディア・レンタルスペース・まちづくりと人の生活に関わる6つの事業を展開しています。
「事業ターゲットは世界中の人々」と語り、多角的な事業を通じて顧客とのあらゆる接点を創出する友安社長に新事業づくりについてお話しいただきました。
「売ること」に特化しよう
アメリカの大学で学び、そのまま現地で仕事をしていたのですが、父の病気をきっかけに2004年に帰国。25歳で家業に入社しました。幸い父は回復しましたが「一緒に働きたい」と言うと大反対。当時売上8000万円に対して、借入は3億円。「アメリカでMBAまで取ってこんな町工場で働くことはない」という思いがあったのかもしれません。「残るなら半年間、月15万円だけ出す。その間で自分の給料を稼いでみろ」と言われました。“給与”の15万円なので“売上”だと200万円以上です。最初はデザイン性の高いカーテンフックを作って問屋に売り込みましたが、全く相手にされません。理由は価格でした。父が納めていたカーテンフックは1個80銭、僕のは1個80円と100倍もしたんです。それで一旦ものづくりは諦め「売ることに特化しよう」と決めました。時間のない中で売上を立てるには、作るより売場に並べることが先だと考えたんです。
次に始めたのは、海外のデザイン性に優れたカーテンレールの直輸入・直卸でした。日本の商流は中間業者が多く、製造コストも高いので利益率が低くなります。中間業者を省いた「ノーミドルマン戦略」でそれを打破しようと考えました。台湾の工場を片っ端から回り、最小ロット1万本が当たり前の中、唯一100本から取引してくれる工場を見つけました。仕入れた商品を自作のパッケージに入れて営業しましたが「商品はいいけどパッケージがね」とまた撃沈。そこでデザイナーに依頼し、3500円の卸値に対して500円もするパッケージに入れ替えて東急ハンズに持ち込むと「安っ!!」と即採用。製造業では「商品より高い箱」は非常識ですが、市場は商品とパッケージまで含めたトータルで価値を判断するのだと気づきました。「価格に見合う商品に見えること」が売れる条件だったんです。
3ヶ月ほどで月200万円の売上が立つようになり、父からの条件はクリアしましたが、今度は僕がパンクしました。商品の仕入れ、車中泊での飛び込み営業、戻れば伝票発行と出荷、合間にカタログ制作…。すべて一人でこなしてたんです。そんな時「出荷、手伝いましょうか?」とスタッフが声をかけてくれ、営業に集中できたことで売上は順調に伸びました。
人と協働すると売上は上がる…ではもう1人増やそうと考えた矢先、父が「あの人使ってるやろ?給与は?」「在庫置いてるけど賃料は?」って、チクリと言うんですよ。おかげで営業マンも雇えずに悩んでいた頃、ECに出会いました。当時のYahoo!ショッピングは「3ヶ月出店無料・3日間ノウハウ講座付き」だったので、即決しました。なんとか無料の間に売上を立てるべく爆速でページを公開すると、その日に商品が売れました。可能性を感じて、父にカーテンレールのEC事業を相談したところ「自分で付けれる人どんだけおんねん!」と一喝されました。「じゃあ誰でも付けられるようにしたらエエんやな?」と商品改良したら、それが当たったんです。そこからは長尺の部材を仕入れて自社でカットし、サイズ展開やセット売りなど、なるべくお金をかけずに商品数を増やしました。結果、EC開始から3ヶ月で卸しの売上を超えました。最初はとにかくお金がなかったんで、できることは全部自分でやり、どうやって安く仕入れて高く売るかをひたすら考えていましたね。

理念のために働く
僕たちの理念は「世界中の人々の人生に彩りを。」なのですが、ECを10年ほどやった頃、ふと「このままECだけやってていいのかな?」と思いました。世の中でECが当たり前になり、品質に関係なく安いものが売れる時代。同じようにネットで商品を並べるだけでは、僕たちの提案したい「彩りある人生」は伝わらないんじゃないか。そう思って2015年東京の浅草橋に『友安製作所Cafe』をオープンしました。当初考えていたインテリアショップやショールームだと興味のある人しか来ない。結局買うのはEC経由なので店舗スタッフの人件費も賄えない。コーヒーがあれば気軽に来れて日銭も稼げると考え、店内を全て自社商品でコーディネートしたカフェを作りました。
僕の事業展開って全部「これでいいんかな?」から始まってるんです。インテリアを買う人の中には、施工は誰かにやってほしい人もいるだろうと職人の斡旋を始めたり、「カフェと同じ空間を作ってほしい」と言われて工務店を始めたり。でも空間はできても「家具は自分で買ってください」って言わざるを得ず、毎回モヤモヤしていました。そもそも友安“製作所”なのに、唯一の製造品であるカーテンフックの売上はたった0.2%。あと99.8%は小売業でした。「これでいいんかな?」ですよね。
転機は2014年開催の『友安フェスタ』という自社イベントです。インテリアにこだわった新オフィスを「ドヤ!」って公開したのですが、お客さんが食いついたのは工場に置いている祖父が愛用していた古い機械でした。「価格と品質」だけでなく「物語」が求められる時代になったんだと感じました。価値ある商品を仕入れて売るだけでは、友安製作所のヒストリーもストーリーも伝わらない。お客様が応援したくなるような僕たちの想いがない。改めて考えたとき、祖父も父もものづくりを極めてきたからこそ“製作所”なんだと気づき、ものづくりへの回帰を決めました。社内では「業績良いのになんで?」と反発もありました。でも「儲かってるからこのままでいい」という事業は長くは続かない。売上だけを見ていては、自分たちが何のために事業をするのかを見失う。そうなれば誰も応援してくれないし、淘汰されていく。理念が「世界中の人々の人生に彩りを。」なのに、自社商品だけで彩りある空間が作れない。ならば、理念実現のためにものづくりをしようと。
そこから壁紙用の印刷機を導入したり木工所を作ったりしました。僕たちの規模で万人受けするような大量生産品を作るのは違う。一人ひとりに寄り添うために、設備はカスタマイズ性に優れたオンデマンドの機械を揃えました。今では自分たちの商品だけで納得のいく空間が作れます。仕入れ商品もデザインから入るし、オリジナル商品はより一層こだわる。だから胸を張って出せるし、お客様からも「友安さんらしいね」と言っていただける。「らしさ」って言語化できないけど、理念を実現する姿勢を貫けば自然と伝わるものなんだと思っています。
「売ると作る」から「必要とされる」へ
友安製作所は、祖父と父の「作る時代」、僕の初期の「売る時代」、そして現在の「売ると作るの時代」を経て、「必要とされる時代」へとシフトしつつあります。理念にもある通り、僕たちのお客様は「世界中の人々」。そこにはいろんな趣味・嗜好の方がいます。理想は、誰もが自分に合う選択肢を見つけられるようにすることです。例えばECは楽天だけでも4店舗展開しています。同じ商品でも、サムネイルを淡い色にすれば女性に、ネイビーなどの濃い色にすれば男性に売れる。僕たちがやっているのは「商品単位の売場作り」ではなく「お客様に合わせた売場作り」です。当然、手間はかかります。でも「これが得意です」と言い切るよりも「なんでもある」場所でありたい。よく「何でもできるは何もできない」って言われますが、「何でもできる」の深度を深めれば「友安製作所さえあればいい」と言われる存在になれるかもしれない。そうやって必要とされる会社を目指しています。

6つの事業の中で今最も伸びているのが、レンタルスペース予約サイト『カシカシ』です。月間約10万人がアクセスするサービスですが、単なるスペースオーナーとユーザーをマッチングするものではなくて、「僕たちのお客様が集まるプラットフォーム」なんです。オーナーさんは一般の方よりもリフォームする機会や空間にこだわる方が多いので、僕たちの潜在顧客です。だから彼らに求められるサービスを作り、そこに自社の商品バナーやクーポンをつけるとそのまま購入につながります。
さらに僕が力を入れているのが「ホームパーティー推進活動」です。この5年で日本の人口は400万人減。これは静岡県の人口に匹敵します。市場がシュリンクする中、売上を伸ばすには新しい需要を作り出すしかありません。ホームパーティーが盛んになれば、家を片付けたりオシャレに整えたい人が増える。1社で文化を作ることはできないので、賛同者を募った結果、現在150組以上の企業や個人にパートナーとして参加していただいています。シャープのような大企業や普段は競合する企業同士が同じ目的に向かって集まっている。営利非営利問わず、社会に求められる存在になることで続いていく会社になれるのだと思います。
情熱・理念・人が事業をつくる
父から「あいつの給与は?」とか「誰が付けれんねん」と言われとき、正直しんどかったです。でも折れずにクリアし続けたことが結果につながっていきました。父のせいだと他責にしないために、僕には理念が必要でした。理念を掲げて実行し続けると「手伝いましょうか?」というスタッフが出てくる。少しずつ理念が浸透すれば、皆自分のやるべきことが見えてきます。今の友安製作所は僕1人が頑張る会社じゃない。1頼んだら2返してくれる仲間がいます。スケジュール管理を頼んでいるマネージャーは、何も言わなくても講演スライドの校閲をしてくれます。本質的にマネジメントが何をすべきか理解し、それが会社の価値につながると分かっているからです。
だから僕は日報や面談、社内アワードなどの仕組みも使いながら、できるだけスタッフを見て「ありがとう」を伝えるようにしています。情熱をもってやり続けるには理念が必要で、理念を実現するには仲間が必要。事業づくりって全部つながってるんだと思います。

ともやす・ひろのり
1978年大阪府八尾市生まれ。2004年株式会社友安製作所入社。2005年にインテリア・DIY用品のEC事業を立ち上げ10年で売上約20倍、従業員数は5名から100名超へと成長させる。2015年カフェ事業をスタートし、翌年代表取締役社長に就任。現在6つの事業を展開する傍ら「FactorISM」「みせるばやお」などの、ものづくり企業の連携による産業振興や地域活性化にも取り組んでいる。

株式会社友安製作所
代表取締役|友安 啓則
創 業|1963年1月25日
本社所在地|〒581-0067 大阪府八尾市神武町1-36 TEL:072-922-8789
事業内容|インテリア・エクステリア・DIY用品の輸入・製造・通販、レンタルスペース事業、飲食事業、工務店事業
『あの企業が考える 事業づくりとは何か?』
発行元 | 大阪府商工労働部中小企業支援室経営支援課
発行日 | 2025年10月7日
プロデュース | 枡谷郷史、足立哲、大内涼加、西尾和倫(大阪産業局)
企画・取材・記事・デザイン| 古島佑起(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
プロジェクトマネジメント | 吉原芙美(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)

