ACTIVITY 活動内容

取り組み

株式会社トライアード 堀口 英人

ハリーポッターやスターバックス、スタジオジブリなど名だたるIPや企業とコラボするメモパッド『OMOSHIROI BLOCK』。
積層された紙を1枚ずつ抜き取ると、緻密な建築物や街並みなどが現れる唯一無二のプロダクトです。
圧倒的なものづくり技術を武器に誰も見たことのない商品を生み出した、株式会社トライアードの堀口社長に新事業づくりについてお話しいただきました。


“多くの人に見てほしい”から始まった新事業

トライアードは、主に官公庁・不動産会社・設計事務所・建設会社などからご依頼を請けて建築模型を制作する会社です。制作期間は短いもので数週間、都市開発など大規模なプロジェクトでは半年以上におよびます。ご依頼は年間150件を超えることもあり、日本のみならずベトナムやオーストラリアなど海外のプロジェクトにも参画してきました。

事業は順調でしたが、建築模型は専門性が高く、関係者のみが使用するケースやマンションサロンの中に展示されていて、その不動産を検討しておられる方にしか見ていただけないことがほとんどです。納品すると私たちの手元にも残りませんし、年間の契約数には波があります。そこで「もっと多くの人に見てもらいながら、安定した事業の柱を作りたい」と考え、自社商品の開発という新事業に踏み出しました。

トライアードの特徴は「独創的な企画力」「色々な表現手法を用いたデザイン力」「緻密なものづくり」です。これらを掛け合わせ、私たちのスローガンである「OMOSHIROIをかたちに」をどう具現化するか知恵を絞りました。その結果生まれたアイデアが、紙を1枚ずつ抜き取ることで内部から構造物が姿を現すプロダクトです。

アイデアをかたちにすべく平面図から立体を組み立てる模型制作のノウハウを結集し、さまざまな可能性を想像しながら、数えきれない程の試作を重ねました。商品化と並行して2013年2月には実用新案も取得しました。

『OMOSHIROI BLOCK』のブランドコンセプトは「Memory(記憶)× Moment(時)× 彫刻=MeMo彫(メモ帳)」。抜き取ったメモ紙はPOPカードとしても使え、すべての紙を抜き終えるとモチーフの建築物や街並みが完成して“飾れるペーパーアート”になります。

清水寺本堂をモチーフにした 『OMOSHIROI BLOCK』の第一弾「Kyoto -華-」

バズとコロナ、2度の危機

最初のモチーフは、日本建築の構造美を象徴する清水寺本堂。手のひらサイズに表現された建築物を見ると、その精密さに皆様驚かれます。紙質や色合い、紙を引き抜く際に細部が破れないように形状を工夫するなど「見て・触れて・使って・感じてもらう商品づくり」は、建築模型とは異なる設計も必要ですが、それがまた面白いところでもあります。

そうして構想から6年が経った2017年11月、私たちの精密なものづくり技術を凝縮した『OMOSHIROI BLOCK』第一弾「Kyoto -華-」が商品化できました。2019年1月には商品化にたどり着いたものの、to Cの販路は全くありませんでした。そこで卸先を求めて大阪商工会議所が主催する流通企業との商談会に参加しました。そこで唯一手を挙げてくださった東急ハンズ梅田店(現:ハンズ梅田店)さんにて販売が決まり、2017年12月『OMOSHIROI BLOCK』は小さなスタートを切ることができました。

年が明けた2018年の1月、突如会社のサーバーがダウンしました。原因は『OMOSHIROI BLOCK』をご覧になられた方がSNSでつぶやいたことです。たったひとりの投稿が10万リツイートに膨れ上がり、サイトへのアクセスや問い合わせのメールが殺到しました。SNSで話題になると、今度はテレビや新聞、さらには海外メディアからも取材依頼が相次ぎました。「たまごっち以来の大ヒット!」「アメリカの年間10大トピック!」などと報じられ、カナダやヨーロッパでも取り上げられました。情報は“ニュース”として私たちの手を離れて拡散し、販売実績が伴わないまま世界的な大ヒット商品として駆け回っていったのです。世界中から取引の問合せやオーダーメイドの見積依頼が殺到しましたが、現実はとても追いつけませんでした。見てもらえれば驚きや感動を与えられる自信はありましたが、想像をはるかに上回る反響にこちらの体制が整っておらずメールの返信すら追いつかない。国内注文の一部を納品するだけで精一杯で、かなりの数を失注しました。

ご期待にお応えするべく2018年~2019年にかけて数十台の設備を導入し、人員も補充してようやく量産体制を確立しました。ところがその矢先にまたも想定外の事態が訪れます。新型コロナウイルスの流行です。観光客向けの国内卸しも海外物流もすべてストップし、新規取引やオーダーメイドの商談も完全に白紙になりました。既存事業の建築模型も減り、会社の経営は極めて厳しい状況に追い込まれました。

リスク回避のために「ここで止める」という選択肢もありましたが、私の考えは逆でした。「今のうちにできるだけ商品を作っておきたい」。いつかは分からないけどコロナ禍は明ける。その時にまた商品が供給できないということを繰り返したくありませんでした。そう考え、既存事業で何とか資金繰りをしながら『OMOSHIROI BLOCK』は人員を減らさず、新商品の企画や在庫の量産を続けることにしました。

OMOSHIROIを貫こう

事業としての『OMOSHIROI BLOCK』が仕切り直しになったことで、原点回帰し「自分たちが面白いと思うことを丁寧に貫いていこう」と決めました。

その象徴的なものが直営店です。2024年11月には、京都の中でも清水寺や八坂の塔など日本の歴史を体感できる東山エリアに実店舗を開店しました。何代にも渡り技術や文化を継承されておられる日本の老舗企業様のように、長く愛されるものをつくり続けたいとの思いから『OMOSHIROI屋』の屋号を称しています。私も店内で接客し、世界中のお客様とのふれあいの中から日々いろいろな気づきをいただいています。「早く部屋に飾りたいから、紙を抜き終えたものも売っていたら嬉しい」「オリジナルのモチーフでオーダー出来ますか」「自分のアートコレクションの中で一番大切な場所に飾る」と、商品開発のヒントやお褒めの言葉をいただけることもあります。売れ筋は7000円~10000円台の商品ですが、お客様の中には複数ご購入される方も多くいらっしゃいます。

ほかにも「テーマパークに行くための貯金を全部使う!」と言って買ってくれるお子さんや展示サンプルを用いてゲーム感覚でクイズを出題してくる小学生など、その場にいる誰もが笑顔になれる面白くて楽しい時間が生まれることも実店舗ならではだと思います。

一方、卸しのほうでは、弊社の商品をご評価いただいている既存の取引先様に向けて、新商品のご案内や販売促進アイテムの充実、ブランディング強化などの取り組みを行い、関係を再構築。現在は伊東屋様、ロフト様、ハンズ様をはじめ、取扱店舗の数も順調に伸びています。また自社ECにおける海外への輸出実績も50カ国を超えました。 

現在の課題は模倣品への対応です。『OMOSHIROI BLOCK』は商標や積層構造の特許を取得し、権利保護に努めていますが、それでもネット上には模倣品が出回っています。特にハリーポッター商品では、弊社だけでなくIP側の権利まで侵害されるため、純正品であることを示すホログラムシールを導入するなどの対策を講じています。海外で裁判を経験することもありましたが、世界に商品を広める中で「ブランドや権利を守るために費やすコストと労力」が最大の困難だと感じています。何よりも模倣品を本物だと信じて手にされるお客様がいることに心を痛めています。しかし、こういった苦境も数十人という小さな規模の会社であるがゆえに、すべて自分たちで対応せねばならず、結果として対処法をノウハウとして蓄積できたことは大きな財産になったと考えています。

現在、これまでの経験を活かして新たに取り組んでいる事業が『OMOSHIROI COLLECTION』です。現代の暮らしに合う機能的で実用的なアイテムを日本ならではの感性でアレンジし、“和の上質”を感じられるライフスタイル商品として提案していきます。日常に取り入れやすいMade in Japanのものづくりをインバウンド観光客や海外に向けて発信し、日本と世界をつなぐ取り組みです。トライアードはパッケージデザインや販路構築をプロデュースし、参加企業が海外進出するためのステップを大きく短縮できるようサポートします。また『OMOSHIROI COLLECTION』としての実店舗出店も計画しています。

笑顔の連鎖が事業を育てる

私たちは一過性の商品を作っているつもりはありません。長く楽しんでいただける本質的に価値のあるものを、多くの皆様と共有しながら、こだわり抜いてブランドとして育てていきたいと考えております。そのためダブルネームによるコラボレーションは行いますが、OEMにはお応えしておりません。また、現在計画中の世界の素晴らしい建造物をモチーフとした新商品では、現地販売のビジネスパートナーを募ったり、建物や街並みなど地域の保全活動に貢献できる仕組みなどを構想しています。

ブランドの未来を考えると、需要が爆発したタイミングで安直に生産性を優先した海外委託を選ばなくて良かったと痛感しています。多くの方のご関心にお応えできなかったことを反省しながら、これからも信じたことを貫く心構えと、より丁寧に1人でも多くの方に真心のこもった商品を届けることを大切にしたいと考えております。

例えば『OMOSHIROI屋』ではメディアを通じて商品をご存じの方にも、実物を手にとっていただいたり、商品コンセプトや使い方を丁寧にご説明しています。すると「ここに来て良かった」「congratulations!」と言って商品をご購入くださいます。

心から「面白い」と感じることを丁寧に取り組み続ければ、それを感じ取ってくださる感性の合う人との間に面白い瞬間が生まれます。その笑顔が少しずつ世界中へと広がっていけば、この連鎖が結果的に事業の新しい可能性を切り拓くのではないでしょうか。


ほりぐち・ひでと
1971年京都府生まれ。1999年に精密な建築模型制作を柱とするデザイン会社、トライアードを創業(2001年、法人に組織変更)。2004年TVチャンピオン「建築模型王選手権」優勝。「OMOSHIROIをかたちに」をスローガンとして、2017年にリリースした『OMOSHIROI BLOCK』が国内外で大きな話題に。海外展開ノウハウを活かした新事業『OMOSHIROI COLLECTION』を計画中。


株式会社トライアード
代表取締役社長|堀口 英人
創   業|1999年8月21日
本社所在地|〒555-0012 大阪府大阪市西淀川区御幣島2-18-25 TEL:06-6473-5800
事業内容|オリジナルプロダクトの企画・開発・販売、各種模型制作、ディスプレイ制作


『あの企業が考える 事業づくりとは何か?』
発行元 | 大阪府商工労働部中小企業支援室経営支援課
発行日 | 2025年10月7日
プロデュース | 枡谷郷史、足立哲、大内涼加、西尾和倫(大阪産業局)
企画・取材・記事・デザイン| 古島佑起(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
プロジェクトマネジメント | 吉原芙美(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)

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