ACTIVITY 活動内容

取り組み

株式会社MARBLANC 佐藤 辰哉

食肉業界に新たな流れを起こすスタートアップとして注目を集めるのが、2023年に創業した株式会社MARBLANC(以下、マーブラン)だ。
「お肉を科学する」をキーワードに、旨み成分やAIを用いた肉断面の解析など、産地やブランドといった従来の指標とは異なる独自の基準で本当に美味しい熟成肉のギフト商品開発を行っている。
家業が食肉卸業というサラブレッド、佐藤社長に新事業づくりについてお話しいただきました。


「誰に届けるか」で、すべてが変わった

大学卒業後に就職した建築コンサルの会社では経営者の方とお会いする機会も多く、もともと経営に興味がありました。いろいろなビジネスアイデアをもって投資家を回ったりもしていましたね。ところがコロナを機に家業の食肉卸の売上が半減し、社長である父に「今後はtoBだけでなく、toC向けの展開も必要だと思う」と一般家庭を対象としたお肉の小売通販事業を提案しました。その流れでそのまま家業に入社しました。当時食肉業界には、ECで当たり前だったネット広告や丁寧な顧客対応が根付いておらず、それらを徹底したところ初年度から単月で1500万円もの売上を立てることができたんです。手応えを掴むとともに業界のポテンシャルを感じました。その後も業績は順調に伸びましたが、「いかに安く仕入れたか」が評価される卸業に物足りなさを感じ、もっと自分たちで価値や商品づくりをしたいと考えてマーブランを起業しました。

最初に始めたのは、より付加価値の高い熟成肉を家庭用として富裕層向けに販売する事業だったのですが、これが全く当たりませんでした。広告費をかなり投入してバズ狙いで雑誌、インフルエンサー、アフリエイトなどさまざまな広告手法を試しました。中でも、父の日に合わせたキャンペーン動画広告は、制作費と広告費で70万円もかけた大勝負でしたが、売上はその半分と惨敗。「こんなことをしていたら、一瞬で会社が潰れてしまう」と思いましたね。数々試した中で唯一費用対効果があったのが、楽天などの大手ECモール内での広告出稿でした。商品リリース序盤に集中的に広告を出して売上と販売実績が作れれば、自然検索の商品表示順位が上がり、結果広告費を削減してもある程度商品が売れるサイクルが生まれる。ECでは王道中の王道戦略ですが、バズるなど奇をてらわずに地道にやることの大切さを痛感しましたね。モール内広告に絞り日々の売上でなんとかキャッシュを回す中、あるユーザーインタビューで得られた衝撃の事実が大きな転機になりました。「富裕層は広告でモノを買わない」「富裕層は家で料理をしない」この2つの事実は、今後ECビジネスを続ける中で大きな障壁になると判断し、ターゲットを富裕層から「富裕あこがれ層」にピボットしたんです。某高級スーパーは富裕層をターゲットにしながら、実際の顧客は“富裕層向け”というブランドに憧れをもつ世帯であると言われており、私たちのお客様もこの層なのではないかと考えました。すると家庭用に買っていただくにはやや値が張るので使用シーンをギフトに変更し、広告のメッセージも「レストランでは味わえないお肉」から「センスがいいと褒められるギフト」に変えたところ大爆発しました。

初回購入で終わらせないマーブランのリピート戦略

自家需要からギフト商品へのピボットを機に、売り方を熟成の手法やクオリティの発信から良質なギフト体験の設計に切り替えました。商品説明よりも、いかに喜ばれるかの方がずっと重要なんです。そもそもお肉は「贈りたい需要が高いのにあまり贈られていないギフト商品」なんです。なぜかと言うと、ギフト映えするようなオシャレなものがほぼないから。だからこそマーブランはアジアのデザイン賞で最優秀賞をいただくほどパッケージデザインに力を入れて、センスのいいギフトに仕立てています。また、お肉を最高の状態で楽しめるように料理人と開発した3種の焼き方マニュアルも同封しています。このように体験価値を高めることによって、3ヶ月以内のリピート率は28%、3人に1人が3ヶ月以内にもう一度購入してくださいます。ですが、このリピート率の高さはパッケージと焼き方だけが理由ではありません。

マーブランのお客様を大別すると、①ギフトが喜ばれたので別の人にも贈りたい【定番型】、②自分がもらって良かったので知人にも贈りたい【連鎖型】、③ギフトが喜ばれたので自分用に購入したい【自家需要型】の3つのパターンがありますが、それぞれに施策を展開しています。

「TOPAWARD ASIA 2024」で最優秀賞を獲得したパッケージ

【定番型】のお客様は、楽天・アマゾン・LINEギフトなどの大手モールからの購入が圧倒的に多いので、きちんと広告費をかけて商品が目に触れるようにしています。具体的にはギフト検索に「お肉 オシャレ」というワードがあるのですが、そこに刺さるようなメッセージや広告バナーを制作したり、異なるメッセージの広告を出稿して効果を測定するABテストの実施などです。
【連鎖型】のお客様は、ギフトの受け手ですので商品に同梱する形で(※)ブランドブックや商品クーポンなどのご案内やお得な購入特典をご用意しています。
【自家需要型】のお客様へは、購入後のレビュー投稿でマーブランのお肉が入ったオリジナルカレーをプレゼントしています。一般的に贈り主は自分で食べる機会が無いので、レビューも溜まりつつ自家需要という新たな顧客を創出する施策です。また、カレーと一緒に公式LINEのご案内をしており、そこで自社ECで使用できるクーポンを発行しています。これは販路施策なのですが、自社ECは大手モールに比べ手数料が安く、広告費もかけていないので利益率が高いんです。その分、クーポンや無料の専用調味料をお付けするなどのインセンティブで還元をして、なるべく自社ECからご購入いただけるようにと考えています。
このように一つひとつは些細なことですが、1回の購入をきっかけに何度も購入いただけるような仕組みづくりが、高いリピート率につながっているのではないかと思います。

※ECモールの規約に抵触する場合は送付していない。

徹底した顧客目線が売れる商品を生む

事業づくりでもう一つ忘れてはならないのが、独りよがりにならないことです。サイトや広告のメッセージはお客様にとって何が価値かを徹底的に考えています。と言いますのも、私自身はこだわりが強く、今でも研究室にこもって熟成方法をいろいろ試しながら「お。また美味しくなった」と一人ほくそ笑んだりする性格です。商品について書けと言われればいくらでも書けますが、そういったこだわりはほとんどの場合売れる理由にはならないんです。マーブランでは、メッセージを作るときはまず私が思いの丈や商品について長文で書きます。それをデザイナーの妻に見せると「あなたの文章は本当に買う気が失せる」と言われ、半分くらい削られて本当に伝えるべきことだけが残ります。くそうと思うんですけど、それで商品が売れるようになるんです。開発者として葛藤もありますが、自分のエゴでお客様を逃してしまうのはあまりにもったいない。初年度、相当額の赤字を掘り「まず売上を上げないと事業存続ができないこと」を嫌というほど思い知らされたので今は納得しています。
お客様目線の価値で言えば極論、商品が革新的である必要すらないと思っています。私自身は熟成にこだわって作りますが、お客様の購入動機は「パッケージがオシャレだったから」「喜んでもらえそうなギフトだったから」という意見が多いんです。つまり革新的な技術にこだわらなくても、今ある市場の中でちょっと良いものくらいで十分だと思うんです。商品開発は大事ですが、じっと一人でこもって革新性にこだわるよりは、お客様のニーズをどれだけ拾えるかというところに時間をかけたほうが結果として圧倒的に良い商品ができるのかなと思います。高品質だから売れるのではなく、お客様にとって価値があるから売れるんですよね。

そういう意味では価格も重要だと考えています。マーブランで最も売れるステーキの価格は2人前280gで1万円ですが、商品の質でいえばもっと高くても良いと思います。しかしお客様目線で見れば「平均より高いけど、百貨店より安い」がマーブランのブランド価値なんです。百貨店より安いのにギフト映えしてお肉の焼き方もついてくる。質に合わせて幾ばくか単価を上げるより百貨店のお客様がマーブランにスイッチしてくれたらおもしろいと思っています。

今後、直近の計画は商品数の増加ですね。ギフトは贈る時期が偏るので、ギフトシーズン以外も楽しめる自宅用のおつまみ商品を開発中です。マーブランのギフト認知を高めつつ、商品数を増やして総体的な業績を伸ばしたいですね。

新事業づくりは、ゼロスタートではない

事業づくりのスタートが「補助金があるから」ではなかなか厳しいと思います。お客様に求められる商品があって補助金でサポートしてもらうというのが健全ですよね。事業を存続させるには、新しい商品を作り続けなければなりませんが、その時に大切なことは「商品・販路・客層」をきちんと見ることだと思います。新事業でこのうち2つ以上を既存事業と別物にしてしまうと、ゼロから始めるのとほぼ同じだと思います。マーブランでも補助金を使ってここ(ラボ)で、テイクアウト事業に挑戦したことがあります。でも、今振り返ると全部バラバラなんです。「ギフト用食肉とテイクアウトフード」・「オンライン通販とリアル店舗」・「富裕あこがれ層と地元商店街層」。私たちがECで培ってきたノウハウが一つも使えず、早々に撤退しました。事業開発において「強みを活かす」とよく言われますが、私は自社のもつ「商品・販路・客層」のリソースをバランスを取りながら変化させることが強みを活かすことだと思っています。今挑戦しているおつまみ商品だったら、販路と客層は変えず商品だけを変えるという具合です。しかしながら、どれだけ頭で考えていても何が当たるかは分かりません。ECだと広告がハマるとすぐに数字に表れるので逆に見切りをつける判断も早くできます。私たちの場合は、1商品に広告予算をつけて3ヶ月ほど運用して、ダメだったら次を試します。どれだけ量を試せるか、その中で一つひとつ最適化していくしかないんだと思います。


さとう・たつや
1994年京都府向日市生まれ。神戸大学建築学科を卒業後、ハウスメーカーで建築デザインに従事したのち、建築業界に特化したコンサル会社にて経営改善を学ぶ。コロナ禍を機に家業である食肉販売会社に入社。立ち上げたEC事業を総売上の1/3を占めるまでに成長させた。2023年に家業とは別資本の新会社、株式会社MARBLANCを起業。2期目にして全月黒字を見込むなど順調に業績を伸ばしている。


株式会社MARBLANC
代表取締役|佐藤 辰哉
創   業|2023年3月10日
本社所在地|〒531-0072 大阪府大阪市北区豊崎3-15-5 TKビル2F TEL:050–5369-9224
事業内容|食肉のオンライン販売


『あの企業が考える 事業づくりとは何か?』
発行元 | 大阪府商工労働部中小企業支援室経営支援課
発行日 | 2025年10月7日
プロデュース | 枡谷郷史、足立哲、大内涼加、西尾和倫(大阪産業局)
企画・取材・記事・デザイン| 古島佑起(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
プロジェクトマネジメント | 吉原芙美(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)

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