新事業展開の事例

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取り組み

DOCKET STORE

ミニマムスタートで
ニッチな商品を作る一人文具メーカー

2022年、電子帳簿保存法の改正により領収書を写真などの電子データで保存することが認められた。これを受け、光が反射せず快適に領収書を撮影できる商品『レシートスキャンボード』を開発したのが箕面の文具店ドケットストアの店主・山下さんだ。
店舗経営と並行して、開発した自社商品は20を数える。“一人文具メーカー”でもある山下さんのユニークな商品開発について聞いた。

INTERVIEW

DOCKET STORE 店主

山下 義弘
Yamashita Yoshihiro

ちゃんと撮れないと経費にできない!?

『レシートスキャンボード』は僕自身の経験から生まれたものです。経費精算で領収書を会計アプリに取り込むときにスマホで写真を撮るのですが、財布に入れていた領収書を綺麗に撮影するのって意外と難しいんです。シワを伸ばすのにクリアファイルに挟むと、天井の照明がファイルに反射する。電子帳簿「保存」なのに、光で重要な情報が見えなくて経費として認められなかったら困る。どうにか反射しないマットなクリアファイルはないものか?というのが元々の着想です。
そこで商品の仕入れ先で付き合いのあった透明デスクマットのパイオニア「株式会社ミワックス」さんに相談してみると、低反射のすりガラスのような素材があるとのことでした。早速A4サイズに切ってもらってシートの試作が完成。また撮影の際、領収書のフチをクリアにするための黒い背景ボードは、数多くの手帳を手がける国内メーカーの「株式会社LACONIC」さんに協力を依頼し、日常の風景に馴染むクールなデザインに仕上げていただきました。でき上がった商品は最初、CAMPFIRE系列のBOOSTERというクラウドファンディングに出しました。無事68万円のご支援をいただき、ニッチながらある程度需要が見込めることが分かりました。その後自社ECや卸への展開も考え、クラファンの時に費用をかけられなかった商品写真や説明書のクオリティを上げるなど「きちんと製品らしくする」目的でテイクオフ支援補助金を申請しました。

商品開発はミニマムスタート

ビジネスには「スモールスタート」という言葉がありますが、僕の商品開発は「ミニマムスタート」です(笑)。『レシートスキャンボード』も初期費用は10万円程度。任天堂の有名社員だった横井軍平さんが提唱する「枯れた技術の水平思考」という哲学が好きで、技術開発にものすごい高額な投資をせずともアイデア次第で既存の技術で価値を作り出せるって発想なんです。『レシートスキャンボード』も低反射シートの製造自体はデスクサイズのマットをA4に切るだけなので大きな投資は必要なく100個くらいの小ロットから作れます。店をやっていると在庫を抱えるリスクは痛いほど知っているので、ウチのような小規模だと「作り続けやすいこと」はとても大切なんです。
いろんな商品を扱っていたり、前職が無印良品だったこともあって協力先のツテが多いと思われることもありますが、そんなことはないです。基本的にアイデアが浮かんだら実現できそうなメーカーを探して、一般の問い合わせフォームからメールします。やりたいことを伝えて見積をいただき、実現できそうだったら話を進める。見積が思ったより高くてポシャることもあります。頑張らないという意味ではなく、無理をしすぎないというのは重要ですね。『レシートスキャンボード』はおかげさまで月100個くらいが安定してAmazonから売れるようになりました。今後も長く売り続けたいですね。

“説明して売る”小売のブルーオーシャン

今年の確定申告時期にも『レシートスキャンボード』は話題になりましたが、ポテンシャル的にはもっと売れると思います。いよいよ「パクられたらどうしよう?特許や実用新案は数十万単位のお金がかかるし、シンプルな商品だから完全に保護はできないぞ」と心配していましたが、なかなか真似されないんです。以前著名なバイヤーさんに「この商品は説明しないと売れないね」と言われたんです。棚置きしてても何か分からず売れないだろうと。それを聞いて「ニッチな商品を説明して売る」というのが僕の強みだと思いました。店舗以外にも僕はnoteで一つひとつの商品について熱量を込めて書き綴っているのですが、するとnoteを経由して自社ECから商品が売れていくんです。動画全盛と言われていても、きちんと説明すれば良いものは売れるんだと実感しています。説明しなくても売れるものはみんな取り扱いたいので、どこでも買えるものになってしまう。逆に説明しないと売れないようなニッチなものはお店の個性になるし、それをわざわざ説明して売ることは大手さんにできない“小売のブルーオーシャン”なんだと思います。 今後はひとまず売上5000万円までは一人で頑張ってみます。最近、商品の企画コンサルのお話をいただくことも増えてて、売れる面白い商品を作りながらその知見を活かしていくようなサイクルを作って、どこまでいけるか挑戦してみたいですね。

レシートスキャンボード
レシートスキャンボードの使い方

DOCKET STORE(ドケットストア)
代表取締役|山下 義弘
創   業|2018年
本社所在地|〒562-0035 大阪府箕面市船場東1-2-20 ウォールマンビル3F
事 業 内 容 |文具・雑貨の小売、企画・製造・販売


WORDS:2 /大阪で新規事業に挑む人と支える人のことばを集めたインタビュー集
(令和6年度新事業展開テイクオフ支援事業活動報告書)

発行元 | 大阪府商工労働部中小企業支援室経営支援課
発行日 | 2025年3月11日
プロデュース | 枡谷郷史、足立哲、大内涼加(大阪産業局)
企画・取材・記事・CD・D | 古島佑起(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
プロジェクトマネジメント | 吉原芙美(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)

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