新事業展開の事例

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業種
取り組み

常磐精工株式会社

1964年創業。アルミフレームを用いたポスタースタンドやA型看板の企画製造メーカー。2023年8月、喜井翔太郎氏が立ち上げた社内の新商品開発プラットフォーム『ATTA-TOSA FACTORY(アッタトサファクトリー)』より第1弾商品となるアウトドア用テーブル『TABLEX(テーブレックス)』を商品化。「新事業展開テイクオフ支援」を活用してスタートしたクラファンでは240万円近い支援を集めた。2024年7月、喜井氏が代表取締役に就任。

Q1. 新規事業を始めるきっかけは?

新規事業の『ATTA-TOSA FACTORY』は、僕が事業承継するにあたり取り組んできた社内開発体制づくりの一環です。スタンド看板という商材はすぐに無くなりはしませんが、将来的にデジタルサイネージが主流になれば、アルミフレームの加工技術だけでは生き残れません。またコロナのように突発的に市場に大きな影響を与える状況がいつ来るかも分からない。メーカーとして激しい時代の変化に対応するには、その時求められる商品を即座につくり出せる開発体制が必要だと思いました。
『ATTA-TOSA FACTORY』は、日常的に新商品を生み出すための仕組みとして、社員の商品アイデアをウェブ上に公開する「COLLECTION」とそこから生まれた自社商品で構成されています。立ち上げメンバーは僕と若手社員1名、デザインコンサル会社SASIのメンバーを含めた4人。ですが、基本的に僕は口を出さず、社員が主体となってSASIさんと壁打ちをし、ひたすら「自分が本当にほしい商品」について考えながら開発に取り組みました。そうして生まれたのが第1弾商品『TABLEX』です。

Q2. 新規事業の中で苦労した壁は?

『TABLEX』はクラファンで約2400%の支援を達成するなど順調な滑り出しを見せましたが、その後の販路拡大では現在進行形で苦戦しています。『TABLEX』を取り扱ってくれる卸先のツテはなく販路は新規開拓になります。リリース時、すでにアウトドアブームは下火になり、卸先はどこも新規契約に消極的。「やや高い価格・倉庫で場所を取る・無名の町工場が考えた1種類しかない商品」は仕入れる側としてはリスクでしかなく、『TABLEX』の販路開拓は一向に進みませんでした。今はEC直販も視野に入れ、商品を知って体験してもらうためにレンタル家具のサブスクに商品登録しています。使ってみて良ければ購入できるという仕組みです。引き続き大型店舗への営業や展示会には出展しますが、戦略的には他の可能性を探らないといけないですね。

Q3.新規事業を始めて良かったことは?

一番は『ATTA-TOSA FACTORY』担当社員の圧倒的な成長です。メーカーの最大のやりがいは「自分の考えた商品が世に出ること」だと思うのですが、開発から巻き込んだことで強い当事者意識が芽生えたように思います。最近は、日常業務に加え「3DCADを勉強してみたい」など意欲を伝えてくれるようになりました。会社としてもセミナーの受講費や教材費など積極的に支援していきたいです。やらされている状況だと支援しても身になりません。だから能動的な社員が増えてきたことは本当に大きな成果です。今はその社員と新入社員の2人体制で運営しています。嬉しかったのが「COLLECTION」で社員のアイデアを見たお客様から「こんなの作れますか?」と特注商品の発注があったことです。新しい可能性も見えましたし、基本的にすべて自分たちで考えてやってくれているおかげで、僕も新たに増えた社長業務に時間を使えています。

Q4.今後の展望は?

本業では業界シェアを拡大しながら売上を伸ばしたいですね。戦略としてはニッチな需要の商品でも「とにかく商品を作りまくること」です。例えば縦長の看板が主流の中、横長をほしい人がいたとします。安価な海外メーカーは数が出ないものは作りたがりませんが、ウチは自社工場なので初期コストほぼゼロで対応でき、他に作るメーカーもいないので適正価格で販売することができます。今1ヵ月に1つ新商品を発売していますが、現状2500種ある商品数をどこまで増やせるかですね。あと、商品情報の充実にも力を入れていて、全商品分の動画を撮影したりしています。
新規事業では僕が最前線でバリバリ動くというよりは、より多くの人を巻き込むフェーズに入ったと思います。『ATTA-TOSA FACTORY』の担当社員が社内の巻き込みを頑張っているので、僕は社外からインターンシップの学生や企業、大学の研究室などのリソースを混ぜ込んで内外から盛り上げたいです。

Q5.新規事業を始める方にメッセージを

僕は「チャンスの神様には前髪しかない」という言葉が好きで、今だと思った時に攻めるようにしています。新規事業にはコストも時間もかかる。だからこそ自社に体力があるうちに、早く始める方がいいと思っています。新規事業に限らず、全く課題のない企業ってないですよね。業績以外でも人材育成、採用、どこかに不安がある。9年前、僕が家業に戻った時、既存社員が辞めて人が減りました。若返りを兼ねて20代を積極的に採用しましたが、社内体制の不備もあって全然続かないんです。社風が合わなかったり、ステップアップだったり、人が変わっていく中で試行錯誤を繰り返して、今ようやく落ち着いてきました。時間はかかりましたが、自分が代表になったタイミングでいい社員が育ってくれる状況ができたのは、早くから取り組んできたからかなと思います。


喜井 翔太郎  きい・しょうたろう
1991年堺市生まれ。建設機械メーカーを経て2015年常磐精工株式会社に入社。自社サイトの刷新や生産管理システムの導入を担当。その後も事業継承を念頭においたブランディング、商品開発プラットフォームなど社内体制の整備に尽力し、2024年7月より現職。製造業の担い手育成のため、地域の子どもに向けたオープンファクトリーやワークショップを開催。ものづくりの楽しさを伝えている。


THE HURDLES
発行元 | 大阪府商工労働部中小企業支援室経営支援課
発行日 | 2024年9月27日
企画・取材・記事・CD・D | 古島佑起(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
プロジェクトマネジメント | 吉原芙美(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
紙面デザイン | 永井華奈子(株式会社ハチ)
表紙イラスト | 岡田志歩
プロデュース | 枡谷郷史、足立哲、大内涼加(大阪産業局)

『THE HURDLES』は、府内中小企業の新規事業を対象とした大阪府の新事業支援事業『令和6年度新事業展開テイクオフ支援』の一環で制作されたインタビュー集です。2022年の「新事業支援 Vチャレンジ」から2023年の「令和5年度新事業展開 テイクオフ支援」に至る過去3年間の採択事業者の中から、今なお新規事業に継続的に取り組む6者を再取材して刊行しました。新規事業を始めて3年以内に何が起こるのか。その障害、喜び、成果など現在進行形のリアルな声を収録。本紙がこれから新規事業を始める方々の一助となれば幸いです。

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