2022年「新事業展開テイクオフ支援」の伴走支援をきっかけに、機械加工業を営む本庄氏とITによる業務改善や人材育成事業を展開する玉城氏を中心とした4社の協業によって2023年設立。それぞれの強みを活かした価値共創をキーワードに“現場を知るITコンサルサービス”で、製造業を取り巻く技術継承や人手不足解決のサポートをおこなう。
Q1. 新規事業を始めるきっかけは?
本庄:職人の引退による技術継承や人材不足の問題を抱える今の製造業界には「教えられる人と学べる環境」の両方が整っていません。昔ながらの「見て覚えろ」という価値観は健在ですし、職業訓練校は定員割れ。工業高校の先生も今の現場と交流がなくカリキュラムがアップデートされてない状況です。このままでは日本のものづくりは衰退してしまう。そこで機械加工の私とITの玉城さんの知見を活かして、製造業の技術継承と人材育成環境を整えるのが『中小企業ものづくり共創協会(以下、CMKK)』です。学校や公的機関との連携のしやすさを考え社団として立ち上げました。私は企業や学校などで機械加工の技術を指導し、玉城さんはeラーニング教材としての動画制作やITによる業務改善支援などを担当しています。
Q2. 新規事業の中で苦労した壁は?
玉城:CMKKの準備期間中に東京の展示会で公開した技術指導動画の反応がよく、技術継承のシステム化を目指して誰が教えても一定レベルに育てられる教材動画を3本制作しました。また人材育成ではCMKKが製造現場で技術指導をするコンサルサービスを開始。我々社外の人間が教育するので新人に社内のリソースを割く必要がなく、未経験者でも採用できるので雇用の間口拡大に貢献できます。ただ、技術継承や人材育成はすぐに費用対効果を示せるものではありません。先を見てほしい思いはありますが、資金繰りに苦労されていると「動画に1万円使っていくらの売上になるのか」「コンサルを入れていくら利益が増えるのか」を問いたい気持ちも分かります。入口として生産性を上げるためのIT導入もスポット契約で支援しています。2~3日かかっていた事務仕事が5分で終わるなど劇的に効率が上がるので好評です。あとは大企業などにスポンサードしてもらえるような関係性づくりにも挑戦しています。
Q3.新規事業を始めて良かったことは?
玉城:サービスの導入はまだまだ壁が多いですが、今のところCMKKを設立して良かったことしかないんです。中学校に指導に行かせていただいたり、新聞に取り上げていただいたり。中でももっとも大きなものは共創協業の可能性が広がったことです。2023年12月にCMKK初主催のイベント「むすんでひらく文化祭」を開催しました。北摂エリアの企業と地域の人々をつなぐことを目的に、個人事業者、中小・大企業、行政を巻き込んだフード、ワークショップ、物販、企業紹介など盛りだくさんのイベントです。食品大手のカネカ食品さんは地域とのつながりを強めたいと考えておられて、積極的にご協力くださいました。それがきっかけで今もいろいろな相談やお話ができる関係性ができました。社会や地域に貢献するという目的のもと価値共創に取り組むことで、営利活動では出会えない人や企業とフラットにつながることができる。ビジネスも人と人なので、よい信頼関係ができればそこからいろいろな展開が見えてきます。
Q4.今後の展望は?
本庄:今後人材育成では「アナログ的な感覚値を鍛える」ことに挑戦したいです。ITや機械化が進み、ボタンひとつで部品が出来上がることもあります。しかしそれで本質的にものづくりを理解しているとは言えません。難しい加工注文やいつもと同じ操作でエラーが出た時どうすればいいか、原因は何かを考える力こそAI時代に残る人の仕事だと思います。そういう原理を学ぶには、あえて古いシンプルな構造の機械を触り、振動や音などから機械や部品の状態を判断できる感覚的な経験値も不可欠です。生産性はデジタル優位ですが、学びや感覚を得るにはアナログが必要です。
玉城:テクノロジーが進化してもなぜか毎日忙しい。便利な反面、考える機会が減っているように感じます。また、IT化により業務の属人化を緩和し、誰でも均一なサービスができることを目指す企業が増えています。悪いことではないですが、結果として“考えない”人材を増やさないかを懸念しています。テクノロジーと人間の良いバランスとは。ITの恩恵を受けつつ、人間の感性や創造力などアナログの良さも守っていきたいですね。
Q5.新規事業を始める方にメッセージを
玉城:今はとにかく時代の変化が早くて、膨大な数の商品が次々に生まれては消えています。そんな状況で生き残っていくためには、もはや自社の力だけでは難しいと考えています。私たちの事業もまだ始まったばかりですが、これからの新規事業は何をするにしても、複数の企業と連携して互いの強みを伸ばしたり、弱点を補い合える「共創関係を築くこと」がキーワードになると思います。私たちもそういう輪を広げていきたいんです。
本庄:昔から近江商人の言う「三方よし」の考え方ですよね。巻き込んでいくからには関わってくれる相手のメリットもちゃんと考えて事業を作っていくことがとても大事だと思っています。「自分たちの商品が売れればいい」という気持ちだけだと関係性は続いていかないので。『ものづくり共創協会』という名前にはそういう意味もこもっています。
本庄 博明 ほんじょう・ひろあき
1980年大阪生まれ。株式会社MVC WORKS代表。普通旋盤1級技能士・職業訓練指導員・ものづくりマイスターとして、汎用機からNC機まで幅広い技術を習得。若者や女性、外国人労働者に技術指導を行い、製造業の技術力向上に尽力。
玉城 倫司 たましろ・ともじ
1983年沖縄生まれ。株式会社Skip Job代表。企業のDX、ICT、デジタル化を推進する業務改善と人材育成の専門家。状況に応じたデジタル化戦略を提供し業務プロセスの最適化を行うほか、自社事業ではオウンドメディアの運営も行う。
THE HURDLES
発行元 | 大阪府商工労働部中小企業支援室経営支援課
発行日 | 2024年9月27日
企画・取材・記事・CD・D | 古島佑起(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
プロジェクトマネジメント | 吉原芙美(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
紙面デザイン | 永井華奈子(株式会社ハチ)
表紙イラスト | 岡田志歩
プロデュース | 枡谷郷史、足立哲、大内涼加(大阪産業局)
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『THE HURDLES』は、府内中小企業の新規事業を対象とした大阪府の新事業支援事業『令和6年度新事業展開テイクオフ支援』の一環で制作されたインタビュー集です。2022年の「新事業支援 Vチャレンジ」から2023年の「令和5年度新事業展開 テイクオフ支援」に至る過去3年間の採択事業者の中から、今なお新規事業に継続的に取り組む6者を再取材して刊行しました。新規事業を始めて3年以内に何が起こるのか。その障害、喜び、成果など現在進行形のリアルな声を収録。本紙がこれから新規事業を始める方々の一助となれば幸いです。