主に製造業向けの女性用ワークウェア・オーダーユニフォームの企画販売、ユニフォームの卸売業として2015年に創業。これまでのべ200名以上の現場で働く女性の声をヒアリングし、製造業における女性活躍のための課題解決に取り組む。2022年「新事業支援Vチャレンジ」に採択され、生理の漏れを防ぐオーバーショーツ『エアリーキャッチ』を開発した。
Q1. 新規事業を始めるきっかけは?
「女性用のかわいい作業着ってないの?」創業間もない頃、製造業の経営者さんからいただいたご相談がすべての始まりでした。実際に現場女性に話を聞くと、なんと現行品は男性用のSやSSサイズ。女性には生地が分厚すぎてかわいさどころか働きやすさとは対極の服でした。さらに男性が多い職場で女性が働くことの課題が山積。特に生理の問題は深刻でした。一口に生理といっても体調や休暇などの労働条件、相談しづらいという心の問題などさまざまです。何とかしたいと思いながらワークウェア屋にできることが思い当たらず悶々としていました。転機は2022年3月のフェムテックセミナーです。そこで“生理の漏れ”ならワークウェアで解決できるとひらめき、10月の展示会「フェムテックトーキョー」めがけて急ピッチで商品を開発しました。出展した「漏れを外に出さないインナーガード付きワークパンツ」は大反響!現場女性だけでなくすべての女性の悩みだと実感し、すぐに一般用に商品を改良。インナーガードだけを独立させ、あらゆる服の下に着用できる漏れないオーバーショーツ『エアリーキャッチ』ができました。
Q2. 新規事業の中で苦労した壁は?
展示会での反響を受けて「とんでもないものを作ってしまった。注文が殺到する!」と舞い上がりました(笑)。しかし、満を持して開始した『エアリーキャッチ』のクラファンは目標の30万円をギリギリ達成。まわりの意見で渋々下げた目標だったので、余計にショックでした。再度意見を聞くと「ものは素晴らしいけど、1着6000円はちょっと高い」という声が多く、生理の悩みって「高いなら要らない」程度のものだったんだと思いました。頭を切り替え、ターゲットをtoCからtoBの製造業に絞り、女性活躍の支援などビジネス的な価値で営業しようと考えました。
女性活躍に力を入れる大手、中堅の製造業などにプレゼンに行きましたが、担当者の多くは女性だったにも関わらず全く受注が取れませんでした。気づいたのは、「社会で謳われている女性活躍推進」にパートや非正規雇用者が多い現場女性はまだ含まれていないという事実です。現場女性への投資に後ろ向きな企業が多いという状況に歯痒い思いをしました。
Q3.新規事業を始めて良かったことは?
心ある事業者さんと出会えたことです。エネオス根岸製油所さんは現場で働く女性のために『エアリーキャッチ』をモニター導入してくださり、アンケートでは9割以上の現場女性が満足と回答してくださいました。さらにその他地域の製油所さんでも導入の検討が始まっています。また「フェムテック」の注目度が高まるにつれ、新しい商談や行政からのご相談などビジネスの領域の広がりを実感しています。私の中では現場女性の課題に寄り添うという意味で地続きですが、ワークウェアの企画販売だけでは知り合えなかった人がたくさんいます。同時に自分の強みは「現場女性の悩みに精通していること」だと気づくこともできました。今も一件、ユニークな機能性素材のメーカーと商品開発をしていますが、今後もものづくり企業とコラボし、自分の経験を活かして女性がもっと社会で輝くための課題解決をしたいですね。
Q4.今後の展望は?
やはり何と言っても『エアリーキャッチ』をもっと多くの人に届けることです。私の悪い癖ですが、新しく「こんな課題があるんです」と言われるとすぐそっちに意識がいってしまう。「経営者じゃなくて社会活動家なの?」って言われたり(笑)。でも最近、「エアリーキャッチは絶対にみんなが必要とするものだから、一緒に届けよう」と販売や広報に協力してくれる人が声をかけてくれたんです。『エアリーキャッチ』の定価6000円は、実はクラファン用に値下げした価格でビジネスとしては8800円で売りたいんです。思うように売れず弱気になってしまいずっと6000円で商談していましたが、「ちゃんと価値があるから、伝え方を再考して8800円で売れるようにしよう」って。もちろん主となって進めるのは私ですがこの言葉は心強かったですね。
Q5.新規事業を始める方にメッセージを
社会はとにかく課題だらけです。でも社会課題って遠くて大きな問題ばかりではなくて、誰かの困り事だったりもするんです。私はビジネスって困り事の解決だと思ってて、身近な人の困り事に目を向けるだけでも、ビジネスのタネがたくさん転がっているんじゃないでしょうか。昔は「ウチみたいなちっぽけな会社が社会課題なんておこがましい」と思っていましたが、9年間現場の声を聞き続けて社会課題は規模の問題じゃないと気づいたんです。私も「現場の作業着がかわいくない」という困り事から働く女性の多くの課題に気づけたし、新しいビジネスの起点や人との出会いにつながっています。大上段に構えず、身近な問題を見ようとする意識が次の可能性につながるんだと思います。何より、そういう人が増えたら世の中絶対に良くなると思うんですよね。
東谷 麗子 とうこく・れいこ
1965年大阪市生まれ。作業服屋の長女。20歳から家業を手伝い、2015年株式会社三天被服を創業。現場女性のヒアリングから、軽くて柔らかいジャージ素材の女性用ワークウェアを開発するなど、働く女性のココロとカラダに寄り添う事業を展開。近年ではフェムテック商品の開発が注目を集める他、LED関西ファイナリスト、大阪府スタートアッパー特別賞などビジネスコンテストでの受賞歴も多数。
THE HURDLES
発行元 | 大阪府商工労働部中小企業支援室経営支援課
発行日 | 2024年9月27日
企画・取材・記事・CD・D | 古島佑起(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
プロジェクトマネジメント | 吉原芙美(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
紙面デザイン | 永井華奈子(株式会社ハチ)
表紙イラスト | 岡田志歩
プロデュース | 枡谷郷史、足立哲、大内涼加(大阪産業局)
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『THE HURDLES』は、府内中小企業の新規事業を対象とした大阪府の新事業支援事業『令和6年度新事業展開テイクオフ支援』の一環で制作されたインタビュー集です。2022年の「新事業支援 Vチャレンジ」から2023年の「令和5年度新事業展開 テイクオフ支援」に至る過去3年間の採択事業者の中から、今なお新規事業に継続的に取り組む6者を再取材して刊行しました。新規事業を始めて3年以内に何が起こるのか。その障害、喜び、成果など現在進行形のリアルな声を収録。本紙がこれから新規事業を始める方々の一助となれば幸いです。