1948年創業の和紙専門商社。文具・食品商材・のし紙・寺社仏閣用の教本やご朱印帳に使われる和紙卸業の傍ら、2013年より自社ブランドを展開している。2023年「新事業展開テイクオフ支援」を活用し、和のパッケージ制作サービス『Wanomy(ワノミー)』を立ち上げる。代表取締役の大上陽平氏は2022年より現職。
Q1. 新規事業を始めるきっかけは?
皆さんご存知かもしれませんが和紙は減っています、流通量も作り手も。障子のある家も減り、株券も電子化されました。和紙が一種のインフラだった時代から嗜好性のものへと代わり、オオウエでも平成初期ごろから危機感はあったと思います。試行錯誤の中、2013年に始めた小売文具の自社ブランド『和紙田大學』はブームに乗り、多数のメディア取材を受けるなど成果を上げることができました。ですが、小売文具の参入障壁の低さや単価の安さから次第に商社が続けるのは難しくなりました。
私は前職の印刷会社の知見からパッケージや包材はなくならないだろうと考えていました。そして和紙はインバウンドやサスティナブルなどのトレンドと親和性がある。そこで自身の知見×自社のリソース×外的要因を掛け合わせ、和のパッケージの制作サービス『Wanomy』を立ち上げました。『Wanomy』では予め用意された「形状」「素材」「印刷」「付属アイテム」の4つを組み合わせて手軽にオリジナルパッケージを小ロットからつくることができます。
Q2. 新規事業の中で苦労した壁は?
強いブランドやファンがついていない無名の企業がサービスを立ち上げても誰も見ないですよね。一番の壁は知ってもらうこと、営業です。特に私たち商社は、注文をいただいて納品したり、決まった取引先に素材を提案しに行く商売なので、エンドユーザーへの直需営業のノウハウがありませんでした。今のパッケージよりも確実に単価の上がる和紙のパッケージを飛び込みで和菓子屋さんに提案してもまずいらないと言われます。そもそも問い合わせがくるプル型営業をしたくてwebサービスにしたのに、ノウハウもない中そのサービスのプッシュ営業をするのか?といろいろな悩みが頭の中を巡り、なかなか有効な施策も打てなくて『Wanomy』立ち上げからしばらくは苦しい時期がありました。
Q3.新規事業を始めて良かったことは?
転機は、エンドユーザーに有料で購入いただくレベルのギフトボックスなど高付加価値のパッケージをつくるメーカーさんとの出会いでした。メーカーさんには「より単価を上げたい」「(売上回収の手間などから)無闇に取引先を増やしたくない」という課題がありました。和紙は高級感で単価アップに貢献できますし、問い合わせに対してメーカーさんの代わりに提案営業に行くのは商社の得意とするところです。それぞれWin-winで協業ができる可能性が見えてきました。そんな頃、『Wanomy』のサイトに一件のお問い合わせがありました。東京・白金に本店があるファッションとボタニカルなどを扱うセレクトショップさんから完全オリジナルのギフトボックスを作りたいというご相談でした。高付加価値の箱に和紙を融合したボックスは、1つ1000円を超える超高級仕様でしたが受注することができました。「1つ10円で1万個」という薄利多売とは別の高付加価値の高級パッケージ需要について手応えを感じました。『Wanomy』ではこういう事例を増やしていきたいですね。
Q4.今後の展望は?
始まったばかりですが、自社サービスをして良かったことはエンドユーザーのニーズが聞けることです。卸しでは納品した紙がどのように使われるか分からないことも珍しくありません。ですが、ニーズが分かれば何に価値があるのかが分かります。昔と違って今は同業でも協力し合う共創の時代です。最近は「ニーズに対して最適なチームをプロデュースして価値提案をする」ことは“商社の本質”だと思うようになりました。商社ではない形を求めて新しい事業に挑戦したことで商社の本質的な意味に立ち返ることができたのかもしれません。今は『Wanomy』の他にも、革の代替素材としての和紙を海外に売り込もうとオランダのデザイナーと組んで和紙インテリアブランドのプロジェクトを進めたり、そのような商品を実際に使いながら泊まれる民泊型ショールーム「和紙ハウス」を計画しています。商社らしく幅広い視点で新しい価値を伝えていけたらと思っています。
Q5.新規事業を始める方にメッセージを
新しいことへの挑戦は大変だけどやり続けるしかないと思っています。テイクオフのような補助金や伴走支援は怪我のリスクを最小限に抑えながらチャレンジできるのでどんどんやったほうがいいです。その反面、支援を受けて新規事業の立ち上げはできても、当然運用のフェーズは自社で行うことになります。ウチは社員7人の零細企業で、社員1人がいろいろなことを兼任しているので、利益の上がっていない新規事業に専任の人を置くことはできません。常に時間も人手も足りない中で新規事業を前に進め、会社を支える柱としたいなら1-2年先の事業計画を考えたり、少なくとも芽が出るかどうか分かるところまでは続ける覚悟が必要だと思います。一方で続けていくと計画になかった出会いやビジネスにつながることも多いんです。始めるフットワークの軽さと始めたことを続ける覚悟の両輪を持ちながら、挑戦し続けたいですね。
大上 陽平 おおうえ・ようへい
1989年大阪市生まれ。大学卒業後、凸版印刷株式会社に入社し、印刷物を中心とした企業販促・マーケティングの提案営業を経験。その後、インド・ニューデリーのコンサルティングファームにてアジア企業の投資支援に従事。2019年株式会社オオウエに入社。2023年に『Wanomy』、2024年にはオランダ人デザイナーと協業した和紙プロダクトプロジェクト『yorai』などの新規事業を立ち上げる。
THE HURDLES
発行元 | 大阪府商工労働部中小企業支援室経営支援課
発行日 | 2024年9月27日
企画・取材・記事・CD・D | 古島佑起(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
プロジェクトマネジメント | 吉原芙美(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
紙面デザイン | 永井華奈子(株式会社ハチ)
表紙イラスト | 岡田志歩
プロデュース | 枡谷郷史、足立哲、大内涼加(大阪産業局)
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『THE HURDLES』は、府内中小企業の新規事業を対象とした大阪府の新事業支援事業『令和6年度新事業展開テイクオフ支援』の一環で制作されたインタビュー集です。2022年の「新事業支援 Vチャレンジ」から2023年の「令和5年度新事業展開 テイクオフ支援」に至る過去3年間の採択事業者の中から、今なお新規事業に継続的に取り組む6者を再取材して刊行しました。新規事業を始めて3年以内に何が起こるのか。その障害、喜び、成果など現在進行形のリアルな声を収録。本紙がこれから新規事業を始める方々の一助となれば幸いです。