新事業展開の事例

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取り組み

株式会社シェルパック

食品包装袋の製造メーカーである株式会社ドゥパック阪和の子会社として2018年に設立。「人の役に立つ袋をつくる」を理念に自社商品の企画販売を行う。主力商品の衣類圧縮袋がコロナ禍の観光業の落ち込みにより売上が半減。2020年家業に入社した堂野起佐氏を中心に、2022年「新事業支援Vチャレンジ」を通して取り組んだ新商品『シェルパックサニー』をきっかけに再び業績を伸ばす。

Q1. 新規事業を始めるきっかけは?

私、自社の袋が好きなんです。丈夫で繰り返し使える質の良さ。だけど食品袋って原則使い捨てな上に基準が厳しくて、一般的に十分使える袋でもゴミになってしまいます。それがもったいないし悲しくて。だからそういう端材にもう一度命を吹き込めるアップサイクルな商品を考えていました。
サニタリーバッグにしたのは、趣味の旅行でホテルに泊まった時、サニタリーバッグがチャックも何もないポリ袋だったんです。快適さを求めて来たのに、全く使いたいと思えないし女性として大切にされていないような気さえしました。でも逆にこういうところに配慮があるとすごく嬉しいと思ったんです。そこからクラフト紙の素朴なあたたかみ、中身が見えない安心感と高い密閉率でニオイが漏れないサニタリーバッグ『シェルパックサニー』が生まれました。

Q2. 新規事業の中で苦労した壁は?

商品ができても社長である父から認めてもらえず、社内ではなんとも言えない居心地の悪さがありました。公的な人たちにも関わっていただくことで事業として認めてもらおうという思いもあり「新事業支援Vチャレンジ」に参加。伴走支援機関さんの計らいで設定していただいた、とある有名ホテルさんとの商談に父も連れて行きました。
この日のことは今も忘れられません。私たちの話を聞くや否や「当ホテルには必要ありません」ってバッサリ。ショックでしたね。父が帰り道、「これは何とか仕事にせなアカンな」とつぶやきました。愛する自社の袋と娘の挑戦をコテンパンに言われて父も火がついたみたいで……数日経ち「大阪の老舗ホテル、アポ取ったから行ってこい」って。知人のホテル雑誌編集者さんに頼み込んだみたいです。誰もが知る一流ホテルの名前に圧倒されて「嘘でしょ?ウチらの話聞いてくれるわけないやん」って思いました(笑)。

Q3.新規事業を始めて良かったことは?

「これを大きくできないかしら?」大阪の一流老舗ホテルの女性総支配人さんは『シェルパックサニー』を見てそう仰いました。「ホテルに大人用オムツの着用を知られたくない」そう考えるお客様が客室でオムツを捨てられずに持ち帰られたり、トイレに流してしまう。総支配人のお話から自尊心に関わる悩みを密かに抱えてらっしゃるお客様が大勢いることを知りました。
その日からホテルと共に商品改良が始まりました。適切なサイズや多言語表記、デザイン案など試作を繰り返しながら納品までわずか3ヵ月。協働の実感が湧いたのは自社の名前をホテルのプレスリリースで見たときです。
袋は脇役。納期と値段を求められる日常から、一流ホテルの総支配人と同じ目線で袋が主役の商品作りをするなんて想像もしていませんでした。総支配人が「これはもっと世の中に普及させるべきものだから」とホテルのロゴはなし。大量納品のため端材の袋は使用できませんが、代わりに袋の印刷ミスによる廃棄は一切しないと決めてくださいました。想いがつながったことが何より嬉しかったですね。

Q4.今後の展望は?

『シェルパックサニー』は一軒一軒の宿泊施設を自分たちで回る直営業にこだわりました。利益のためというより想いに賛同してくださる方々と広げていきたかったんです。「これは広まらなきゃダメだから」と商談のアポは引き続き知人の編集者さんが協力してくれています。
それでも宿泊施設は全国に1万軒以上。広めるには圧倒的に手が足りないと頭を抱えていた時、宿泊業界商社さんから問い合わせがありました。サニタリーバッグの素材変更という内容でしたが『シェルパックサニー』のことを話すと「これは絶対に必要な商品です。私にも堂野さんの想いを伝えるお手伝いをさせてほしい」と何度も粘り強く想いを伝えてくださいました。「この人なら」と私たちの想いと営業活動を尊重する取り決めのもと(宿泊業界での)独占販売という形で依頼しました。
現在では宿泊業界以外にも国の機関への導入や異業種とコラボ企画、本業の袋の受注など少しずつ広がっています。初年度10万枚以上を全国各地へ送り出しましたが、まだまだこれからです。

Q5.新規事業を始める方にメッセージを

今でも宿泊施設からは「お客様からそんな困り事をいただいたことはありません」って言われます。でも、「言えないところに課題がある」と私たちが気づけたのは、実際に動いたからこそです。だから宿泊施設にもできるだけサンプルを送るようにしています。「一度客室に置いてみてください」って。使ってみないと必要性は分からないですから。
私たちの理念は“人の役に立つ袋をつくる”です。それは全く新しい構造の袋をつくるというより、袋の新しい使い道の発見やその袋がある生活の価値を提案することだと思っています。大切なのは、それが本当に人の役に立つかどうかは自分が動いてみないと分からないということです。生理用からオムツ用に進化したように、これからも動きながら答えを見つけていきたいですね。


堂野 起佐  どうの・きさ
1994年大阪市生まれ。大学時代情報系の学部でものづくりや商品企画を学ぶ。2020年家業である株式会社ドゥパック阪和に入社。株式会社シェルパックに出向し役員を兼任。袋の価値を高めたいとの想いからアップサイクルなサニタリーバッグ『シェルパックサニー』を開発。本業の傍ら、想いを伝えてまわる営業活動で徐々に支持を広げている。2023年に株式会社シェルパックの代表取締役に就任。


THE HURDLES
発行元 | 大阪府商工労働部中小企業支援室経営支援課
発行日 2024年9月27日
企画・取材・記事・CD・D | 古島佑起(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
プロジェクトマネジメント | 吉原芙美(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
紙面デザイン | 永井華奈子(株式会社ハチ)
表紙イラスト | 岡田志歩
プロデュース | 枡谷郷史、足立哲、大内涼加(大阪産業局)

『THE HURDLES』は、府内中小企業の新規事業を対象とした大阪府の新事業支援事業『令和6年度新事業展開テイクオフ支援』の一環で制作されたインタビュー集です。2022年の「新事業支援 Vチャレンジ」から2023年の「令和5年度新事業展開 テイクオフ支援」に至る過去3年間の採択事業者の中から、今なお新規事業に継続的に取り組む6者を再取材して刊行しました。新規事業を始めて3年以内に何が起こるのか。その障害、喜び、成果など現在進行形のリアルな声を収録。本紙がこれから新規事業を始める方々の一助となれば幸いです。

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