新事業展開の事例

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業種
取り組み

フィッシュ・バイオテック株式会社 田中俊子

代表の右田孝宣社長が夫婦で営んでいた居酒屋の鯖寿司が評判となり「サバ一本でやってみたら?」という夫人の一言から、2007年に鯖寿司専門店『鯖や』を創業。
その後、さば料理専門店『SABAR』をオープンし、店舗数は国内外に17店舗。
今や飲食業に留まらないサバの総合商社『鯖やグループ』として事業を展開しています。
グループ3社目の『フィッシュ・バイオテック株式会社』は、サバ養殖のR&D事業がビジネス界でも注目を集め、さまざまなビジコンで大賞を受賞するほか、2021年実業家の前澤友作氏が立ち上げた「前澤ファンド」にて応募総数4331件の中から一次産業で唯一採択されました。
同社が考える価値とは何か?CMOの田中俊子専務にお話しいただきました。


サバの刺身が一番美味い

サバをお刺身で食べたことがありますか?
私たちは仕事柄いろいろな地域の漁港に行きますが、そこで漁師さんに一番美味しい魚は何か聞くと「サバの刺身が一番美味い」という声が上がります。ですが、一般的にはサバをお刺身で食べたことがある人はまだまだ少ないんです。前澤ファンドに採択いただいた際、前澤さんがSNSでとってくださったアンケートでは、64.5%の方が食べたことがないと回答しました。なぜこんなに美味しいサバの刺身が普及しないかと言うと、寄生虫アニサキスが一つの大きな問題です。天然のサバは、アニサキスが寄生した魚などを捕食して、アニサキスの宿主になり、死ぬと腹腔内にいたアニサキスが身へ移動すると言われています。これを人が生で食べると食中毒を引き起こす可能性があり、防ぐには加熱か冷凍をします。私たちのお店『SABAR』でも生食用は一度冷凍したサバか完全養殖のサバを使います。なので、今は漁師さんが食べるような本当に新鮮なサバのお刺身を提供するのが難しいんです。漁師さんがなぜ食べられるかと言うと、獲れたてをすぐに捌き、アニサキスが身に移る前に内臓を処理するからです。この方法であればアニサキスはほぼいないと言われていますが、当然産地でしかできません。そこで安全に生食できるサバを作る方法が養殖です。私たちが取り組んでいる養殖は「完全養殖」と呼ばれ、陸上で卵から人工的に孵化したサバの稚魚(種苗)を育てる方法です。そもそも生育環境にアニサキスが入る経路がないため、安全なサバを生産することができます。私たちは現在、人工種苗生産・完全海面養殖・完全陸上養殖の3つの養殖事業を行っています。

本当に美味しいサバを手軽に食べられるように

今、種苗生産は和歌山県の串本町、陸上養殖は大阪府の豊中市に自社の養殖場があります。養殖事業を始めるきっかけは、サバ一本で商売をする以上、年々減るサバの漁獲量やアニサキスのリスクとずっと向き合わねばならず、どうにか自分たちで安全なサバを作れないかという思いがありました。鳥取県の陸上養殖サバ「お嬢サバ」のブランディングに関わり、養殖事業者さんとのご縁もできた頃、大手水産企業さんが和歌山にお持ちの研究施設の後継テナントを探しているというお話が入ってきました。人も設備もすぐにでも種苗生産ができるという状況だったので、そこで『フィッシュ・バイオテック』として種苗からの養殖事業がスタートしたんです。

私たちが考える価値ですが、まずサバのお刺身がめちゃめちゃ美味しいので、それを皆さんに食べてもらえる状態にすることが大きな価値だと思っています。私たちは生のサバの美味しさを知ってしまったからこそ「サバの生食文化を広めること」を使命に日々事業を行っています。やってみると本当に大変で(笑)。技術やコストなど課題は多いです。現状はサバの養殖でめっちゃ儲かるとかではないですね。でも、寿司ネタとして定着しているサーモンの市場って日本には1995年までなかったんです。それが生食できない鮭市場に生食できるサーモンが入ってきたことで一気に拡大し、今やマーケットは3000億円規模です。右田社長はサバの状況がそれとすごく似ていると感じていて、ポテンシャルはすごく高いと思っています。何より、サバのお刺身は本当に美味しいので、自分たちが信じたサバの価値を信じてやっていきたいですね。

一つの食文化を作るチーム

よく誤解されますが、私たちは陸上養殖の技術や設備のR&D会社ではなく、どうやって美味しいサバを作るかという養殖サバの美味しさを追求する会社なんです。技術や設備専門の会社さんとチームで陸上養殖をしており、私たちの役割はサバの人工種苗生産、物流、販売、そして飲食店の経営です。人工種苗は現在6世代まで選抜育成をして病気に強く成長が早い品種のサバができています。今後仮に新規参入が増えても、種苗は1世代目からなので、そこは私たちのオンリーワンの価値ですね。
種苗生産で大切にしていることは、品質と安定供給です。メーカーの供給責任として、いくら生き物相手でも「今年はたくさんできました、来年はできません」では信用していただけません。一つの食文化を作るチームとして、いろいろな方々との協働が必要だからこそ責任を果たし、信頼関係を作っていきたいです。「安定供給できるアニサキスがいない種苗」その価値を丁寧に伝えることで、人工種苗をピカピカなものにしていきたいですね。
伝えるといえば、私たちはメディアでの発信はかなり力を入れています。目的は「サバの生食需要の喚起」ですね。サバの生食という今存在しないマーケットを作るには、生のサバを食べてみたい!と関心を持ってもらうことも大切な仕事だと考えています。ありがたいことに取材をいただく機会は多いので、独自のプレスリストもありますし、リリースも出します。話題が少ない時は、自主イベントを立ち上げて告知したり、常にサバの魅力発信が途切れないように心がけています。

新規事業は「執念」

新規事業を立ち上げる時に大切にしていることは、その事業に対して執念を燃やせるかどうかです。夢や希望とかビジネス的に言えば撤退基準を設けるとかいろいろあるとは思いますが、一番は「この事業を自分が続けていきたい」「この価値を残したい」という執念だと思います。大手さんならやってみて収益性がなければ、スパンと撤退もできると思います。でも私たちは、「絶対にサバの生食文化を広める」という執念を持って事業計画を引いています。今後、文化として広まり、サバって儲かるねとビジネスとして人気が出てきたら、どんどん大企業さんが参入してくるかもしれません。そうなったら私たちなんて規模では勝てないですよ。でも、新規参入によってサバの生食マーケットが広がることは良いことなので。私たちは、そういった競争の中でも本当に美味しいサバを作って選ばれる存在になるんだという執念をもってやっています。

新規事業に取り組む方へ「5ヵ年計画がおすすめ」

一方でビジネスで収益を生むのは地道な戦略の積み重ねだとも思います。今の生産量をこのペースで上げていくと、何年後には黒字化するという細かくて実直な数字です。私たちは5ヵ年計画を立て、毎回見直していますね。特に一次産業は、今年の種がない時点で来年の子も、その後の親もいない状況が確定するという世界です。だからこそ計画通りに進むというのはものすごく大事なことなんです。
ただ、矛盾するようですが、もちろん実際は計画通りには進みません。思いも計画も体力的、社会的な要因で変化しますが、その都度原因を分析し、5年後のビジョンも計画も引き直す。変わるのはいいけど、都度イメージを明確に持つことが大切なんだと思います。たぶんそうでないと融資ももらえない(笑)。将来的なビジョンと計画を見直しながら、目の前の事業に向き合う執念。まずイメージを持つためにも、5ヵ年計画はおすすめですね。


たなか・としこ
フィッシュ・バイオテック株式会社専務取締役CMO。大阪芸術大学大学院修了。在学中より料理研究家としてフリーで活動、地域振興や料理教室での経験を活かし、さば料理専門店SABARの立ち上げに関わる。2019年、美味しいサバが身近にある生活を提案するため、サバの養殖事業会社、フィッシュ・バイオテック株式会社に参画。最近食べて感動したのは、右田社長が握ってくれた自社養殖のサバの握り。


フィッシュ・バイオテック株式会社
代表取締役:右田 孝宣
創業:2017年7月7日
本社所在地:〒561-0831 大阪府豊中市庄内東町1-7-33
TEL:06-6868-9568
事業内容:マサバ養殖事業(人工種苗、育種、販売)


『大阪のあの企業が考える価値とは何か?』

発行元 | 大阪府商工労働部中小企業支援室経営支援課
発行日 | 2023年9月1日
プロデュース | 枡谷郷史、足立哲(大阪産業局)
企画・取材・記事・デザイン| 古島佑起(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)
プロジェクトマネジメント | 吉原芙美(クリエイティブ相談所 ことばとデザイン)

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