新事業展開の事例

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子育てにちょうどいいミシン/株式会社 アックスヤマザキ 山崎ー史

大阪で70年超えの歴史をもつミシンメーカー、株式会社アックスヤマザキ。
その3代目山崎社長の経営者人生は、大きな壁から始まりました。
2015年の社長就任と同時に1億円の赤字決算予測。あわや倒産という窮地で生まれた『毛糸ミシンHug』、『子育てにちょうどいいミシン』が立て続けにヒット。
業績は見事V字回復。今や国内外のデザイン賞を獲得し、子育て世代を中心に幅広い支持を集める『子育てにちょうどいいミシン』はどうやって世の中に広まったのか、山崎社長にお話しいただきました。

普通にやったらアカンねや

僕が入社したのは2005年。OEM主体で業績は下降の一途を辿り、10年間何の活路も見出せないまま、代替わりのタイミングで1億の赤字予測です。どないしようって思いました(笑)。これは今年単発じゃなく、来年2億3億と膨れ上がるかもしれないもので、ほんまに怖くて寝れなかったです。
2012年に業績回復のヒントを求めて入ったMBAのビジネススクールでも、ウチの事業の分析結果は「事業撤退」。でも、そこで「セオリー通りやったら撤退か。ということは普通にやったらアカンな」と吹っ切れました。そこからビジネススクールで作った自社の「大逆転戦略」を元に、これまでのOEMから自分たちで考え、社会課題を解決したり大義あるものづくりへと変わる決心をしました。
2015年に発売した『毛糸ミシンHug』は、小学校の家庭科で使ったミシンが難しくて、そこから苦手意識を持ってしまった人が多いという課題に対して、子どもの頃から楽しく使える「簡単・安全」な玩具ミシンを作ってヒットしました。開発に3年を要しましたが、トイザらスさんや業界最大手のおもちゃ問屋さんとの販路開拓に成功。メディアにも多く取り上げていただき、用意していた2万台が2ヵ月で完売しました。結果、1億の赤字は翌年黒字にV字回復させることができましたね。

他にはない発想で社会の課題を解決する

『毛糸ミシンHug』のイベントで子連れのお母さんに話を聞くうちに、ミシンをちょっとだけやりたい人はかなりいるのに、本格的な高機能ミシンしかないことに気づきま した。やりたいという気持ちにミシンが応えられていない。これこそメーカーが解決すべき課題だと思いました。そこで作ったのが、ちょっとだけやりたい人が始めやすい『子育てにちょうどいいミシン』です。
実はこの商品を作る時に、ある夫婦から「実はママ友がきた時、ミシンを隠してる」と言われたんです。ミシンは好きだけど、生活感ありすぎてママ友にはあんまり見せたくないと。かなりショックでしたけど、一方で嬉しかったです。それなら見せたくなるデザイン家電のようなミシンにしよう。ちょうど購読層をターゲットに設定していた雑誌でマットブラックの自転車が評判になっていて、このミシン版を目指しました。実は黒もマットの質感もデザイナーには反対されましたが、デザイン的な視点よりも、実際のユーザーの声を一番重視して全部ヒアリングを元に作りました。

世に広めるために最初はインスタグラムでデザイン家電のような発信を始めました。転機はコロナによる社会的なマスク不足でした。するとコンパクトなこのミシンが「マスクを手作りするのにちょうどいい」と話題になり、フォ口ワーが1万人近くまで急増。役に立てばと急違マスクの作り方の動画をアップしたところ、ものすごい反響がありました。
これをプレスリリースで配信すると、Yahoo!ニュースのトップに載り、翌日には新聞。そこからNHK、TBS…連日電話が止まらなくなって会社もパンク状態です。社会現象にのるとこうなるのかと思いました。発売から9ヵ月間は全く生産が追いつかず、3ヵ月待ちという状況でした。
でも、そういう結果に結びついたのは、他にはない発想で社会の課題を解決しようという想いと商品があってこそだと思います。伝えたい、広めたいと思えるものがなければPRは役に立ちません。実際『毛糸ミシンHug』ができるまで、ウチには想いも商品も伝えたいものが何もなかったんです。だから広める前に、どんな課題を解決するのかを考えてものを作り、伝えたいものを発信するということが大事だと思います。

売り方まで変えた、粗利重視の戦略

2015年に社長を継いだ時に社員には「来年も赤字なら全ての責任は僕が負う。だから、1年間は付いてきて欲しい」と伝えました。期限を決めたんです。
会社は『毛糸ミシンHug』だけで立て直せる状態ではなく、1年間で黒字にするにはもう全部作り替えるしかなかったんです。僕は、その時のことを「この会社は一回死んだ」って言ってます。もう開き直って、おもろいと思うことしかしない。数字も売上は捨てて、粗利を見る。だから意図的に売上を下げて利益率だけ上げていきました。「(数年で)粗利を今の倍にする!」と宣言して。倍って分かりやすいじゃないですか。
粗利を上げるには、売値を高くと考えるかもしれません。ですが、『子育てにちょうどいいミシン』は普段ミシンを使わない人達にハードルを下げたミシンだから、価格が高いとハードルを下げたことにはならない。そこで売値をここも分かりやすく1万円と決めました。その上で、僕たちのやり方を変えたんです。1万円を卸値で売ると金額が合わないので自分たちでEC直販する、と。
みなさんに欲しいと思っていただければ、何とか僕たちのECまで辿り着いてくださるんじゃないかと思ったんです。問屋に流せば一気に広まりますが、利益率で商売にならない。ーか八か、直販のみに絞ることにしました。
売りたいというお申し出を全部断るというのは、販売カの弱いウチからすると相当な覚悟です。

でも、直販は値崩れを防げる。『毛糸ミシンHug』で学んだのですが、流通量が増えると場所によって価格に微妙な差が出ます。どこかで少しでも安くなっているとお客さんはメーカーから買う意味がない。
結果的には、他にはない欲しいと思っていただける商品を作り、売り方を管理したことでECの比率はグッと上がりました。2019年は売上4億円の13%(約5000万円)だったものが、『子育てにちょうどいいミシン』を発売した2020年には売上10億円の50%(5億円)になりました。

新規事業は「人生を懸ける」

まずは「自分が何に人生を懸けるか」ということですね。僕、実はミシン以外に家電を一回やろうとして、結局花が咲きませんでした。事業をする中で数回壁に当たるうちに、これ以上登る気がなくなって辞めてしまいました。でも、ミシンは何があっても諦める気はさらさらなくて。
もう絶対これでやるって人生懸けてたんで。
あとは「相手が欲しいものをつくる」ことです。いらないということは存在価値がないんです。じやあ、そこからどうしたらもう一度社会に、人に必要としていただけるか。相手あってのことですよね。
これからも自分らしく他にないおもろい発想でミシン業界や社会の役に立ちたいと思っています。

新規事業を始める方へ。「後悔しないことを」

偉そうなことは言えないですが、「後悔しないことを事業にする」ということかなと思います。僕は年に数回1人合宿をして近い将来にしなかったら後悔することを書くんです。将来の姿や自分がワクワクすること、できる可能性もないようなことも書いてますが、けっこうその通りにきています。先のことは分からないし、僕はいつも調子が良いのは今だけやと思っているのですが、とはいえ後悔だけはしないように決めてまして。
時間もお金も、いろんなものを投資するので、3年経って「やらなかったら良かった」では悲しいですよね。仮に失敗しても、やりきって良かった!このおかげで今がある!と思えるような気持ちでみなさん、新規事業に取り組まれると社会って良くなるんじゃないかな、と思います。


やまざき・かずし
1978年大阪府生まれ。近畿大学卒業後、機械工具商社を経て、2005年に父が経営するアックスヤマザキに入社。営業を中心に担当し、15年に社長就任。粗利益率の向上を重視して既存商品の整理を進めつつ、新市場を開拓するため子供向けに開発した「毛糸ミシンHug」、子育て世代に向けて開発した「子育てにちょうどいいミシン」がヒットする。2022年11月第4弾となる「TOKYO  OTOKOミシン」を発売。


株式会社 アックスヤマザキ
代表取締役:山崎一史
創業:1946年10月1日
本社所在地:〒544-0022大阪市生野区舎利寺3丁目12-5
TEL:06-6717-5851
事業内容:縫製機械等の製造販売

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