新事業展開の事例

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業種
取り組み

リゲッタカヌー/株式会社リゲッタ 高本泰朗

家業である靴の下請け業の売上がゼロになったことをきっかけに靴メーカーヘと事業転換した株式会社リゲッタ。
新規事業として取り組んだ女性向けのコンフォートシューズ『リゲッタ』が通販業界で大ヒットし、ピンチを乗り越えた高本社長が「本当にやりたいこと」として生み出したのが、唯一無二の街歩きサンダル『リゲッタカヌー』でした。
時代の波に乗った『リゲッタカヌー』はスマッシュヒットを記録。
今や年商15億円、家族5人だけだった会社はいつしか100名の大所帯に。
そんな『リゲッタカヌー』がどうやって世の中に広まったのか、高本社長にお話しいただきました。


めっちゃ自信あったんです

僕らがメーカーに転身して初めて作ったブランド『リゲッタ』が売れて、少し会社も落ち着いてきました。それまでは社員や生野区の職人さんを食べさせるという義務感が先に立っていたので、次は自分のやりたいことをやろうと。そんな思いで作ったのが『リゲッタカヌー』です。
子どもが生まれた頃で「将来この子と嫁さんとで一緒に芝生を歩きたい。そのためのサンダル」として作ったんです。子どもが愛おしすぎてやさしい気持ちで作ってたら、丸っこいフォルムになって。で、まわりに見せたら「こんなゴツいもん売れるわけない」って散々でした。一緒に歩きたかった嫁さんにも言われて(笑)。
でも、僕めっちゃ自信あったんです。『リゲッタカヌー』は、いつかやりたいと思って温めていた構想なんですが、ちょうど2000年代中盤、当時ビルケンシュトックもクロックスもゴツいフオルムなのにすごくウケてたんです。クロックスなんてアメリカの大学のキャンパスでみんな履いてるらしい。それでクロックスが日本で流行ってた2009年に『リゲッタカヌー』を発売しました。狙い通りゴツいサンダルはすんなり受け入れてもらえました。自分のやりたいことと世の中の潮流がかぶったのはすごく運が良かったと思います。タイミングが違ってたらダメだったかもしれないですね。

最大限、分かりやすくする

未経験ながら『リゲッタカヌー』は最初からアパレル狙いで、「IFF」というファッション系の展示会に出ました。
僕、初めての業界の展示会に出る時、いつも「入場料払おう」って言うんです。何も知らんから2年間は入場料払って、しがみつきながら業界のことを学ばせてもらう。同じ靴売るんでも業界によって全くルールが違います。例えば靴の量販店は買取りの代わりに値段を抑えられます。通販は委託で販売時期が終わったら返品が当たり前。『リゲッタ』で通販業界に入ったときは、返品対策としてECで在庫を売るとか、2年くらいやると少しずつ見えてくるんです。商習慣が違いすぎてだいたい1年で辞めちゃう方が多いんですけど。
最初の「IFF」は、1コマの小さなブースに「ビソグフット」 というフラッグシップモデル1つで勝負しました。ありがたいことに会期中ずっとお昼取れないくらい盛況でした。その中で、とある中小の卸会社さんに「広い会場を一日見て回ったけど、君のとこがナンバーワンや!一緒にやらせてくれ」って言われて。大々的な仕入れと販売。さらに小売店を集めてくれたり、パートナーショップを開いてくれたり。結果1年目から生産が間に合わないくらいになりました。


今もウチの発表は展示会がメインで、出すときは「最大限の力で分かりやすく」とあれこれ考えます。その最たるものが「ビッグフット」のように“商品を絞る”ことです。スベる展示会の多くは、全商品出して「何でもできますアピール」するんです。そういう方法もあると思うけど、ウチはしない。極端な話、中敷出すなら中敷しか出さないです。そこで目に留まったらいくらでも「他にこんな商品あるんです」って説明できる。見えるところは絞りながら、ブースの下ではいつでも「こんなのもあります」と言える準備もしています。どんなチャンスが生まれるか分からないですから。

必要なものを作ると、みんなが広めようとしてくれる

『リゲッタカヌー』は初年度だけBEAMSさんから注文があって、その縁でファッション誌にも載りました。
『リゲッタ』でも経験したことですが、商品がバイヤーさんなどの目に留まると、その人たちが勝手に広めてくれるんです。それこそブレイクすると通販ならテレビ番組、新聞広告。大手の通販カタログは当時数百万部出てたので、すごい広告効果です。そんなんで去年までウチは自腹で広告出したことなくて、全部まわりの人が広めてくれてました。
新しいものを発表する時、僕は白い模造紙の真ん中にちょっとだけ絵を描いてる感じなんです。例えば木を1本描いておいたら、あとから来た人が木の実や川や公園なんかを描き足していく。真っ白い紙だと誰も描かないんですけどね。バイヤーや靴好きな人が、商品のアイディアや改善点、この色増やしてほしいとか口々に言うんです。僕はそれを聞きながら少しずつ商品を増やしていく。それをまた誰かが広めてくれる。自分で0→1はできないけど、1があれば2·3·4…をやりたい人は山ほどいるってことだと思うんです。いろんな人が花咲かそうしてくれるのは楽しいですね。
そうなるには、良いものじゃなくて“必要なものを作る”ことだと思います。偉そうなことは言えませんが、良いものはたぶんお金と時間をかけたら誰でもできるんです。ものは良いのに売れてない人が「誰も分かってくれへん」って言うたりしますが、分かってもらうんが一番コストかかるんです。『リゲッタカヌー』のチラシを隅々まで読んでくれたら15%くらいの人が買ってくれるかもしれない。でも、隅々まで読んでもらうことが途方もなく大変で、100人に読んでもらうなら10万円はかかる。「1000円 あげるからこれ読んで」って。 
作って終わりじゃないんですね。必要なのは当たり前で、次は知ってもらう。次は納品…。終わりはないんです。

新規事業は「売れるまでしつこくやる」

新規事業の時に大切にしてることは3つくらいあります。 1つめは、「最初は頑張ってひと通り自分でやること」。自分でやっておくと流れが分かるのであとで事業が大きくなってプロに頼む時、仕事がものすごくスムーズです。最初はキツいです。企画も開発もキャッチコピーも営業も自分。電話、メール、接客で24時間が体感3時間ぐらいで終わります。でもその機会ってなかなかないから、最初は丸投げせず頑張ってやるようにしています。
2つめは、「何が変わるかを考えること」。その事業で起こる変化をワクワクしながらたくさん書く。売上や給料みたいなお金のことでもいいし、協力先に仕事が出せるとか笑顔の星が増えるとかでもいい。そういうのをどんどん書きます。
3つめが究極で、「売れるまでしつこくやること」です。 もちろんやってみてダメなことは変えたり工夫します。でもすぐやめない。「売れるまで」より「売れてから」分かることのほうが多いんです。売れたらハッピーじゃなくて、しんどいこともいっぱいあるので。人やお金、いろんな問題起こりますけど、その分撮れ高高いです。新規事業で大切なことってこれだけかも。「売れるまでしつこくやる」。 前の2つどうでもええぐらいです。

新規事業を始める方へ。「アドバイスは聞くな」

アドバイス聞かん方がええでってことですかね(笑)。とにかくやってみることだと思います。良いアドバイスもありますが、おもしろくなくなることも多い。成功法則知ってるのに、成功体験のない人もいっぱいいるんですよ。僕も聞いてたら生まれてない商品もいっぱいあるので、それやったら聞かんほうがいい。人の話聞いてその通り上手くいくことってないから。だいたいは最初はよく分からんまま始めて、なんかできた。でも、そこからいろいろ苦労して、次はもうちょっと賢くやろう。その繰り返しだと思います。1回目はドロドロでもええからとりあえずやってみることだと思います。


たかもと・やすお
1975年生まれ。大阪府大阪市出身。高校を卒業後、東京の専門学校で靴の製作を学び、靴の名産地として知られる神戸市長田区で修業を積む。家業は1968年に父・高本成雄氏が設立した履物製造業のタカモトゴム工業所。1998年に入社し、2010年に事業を承継。現在は「リゲッタ」をはじめとするコンフォートシューズの4ブランドを展開し、商品の企画、製造から販売まで一貫して手がける。


株式会社リゲッタ
代表取締役:高本泰朗
創業:1968年3月15日
本社所在地:〒544-0012大阪市生野区巽西1丁目9-24
TEL:06-6755-2430
事業内容:シューズ・サンダルの企画、製造、卸売、小売販売

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