本記事は、昨年度までに実施した【新事業展開テイクオフ支援事業】の伴走支援に参加いただいた事業者さまを取材したものです。伴走支援期間を経た現在の状況や、これからの展望についてお話を伺っていきます。
飲食店や商業施設に欠かせないスタンド看板。その生産台数日本一を誇るのが、常磐精工株式会社です。令和5年度の新事業展開テイクオフ支援事業では、新規事業で開発したアウトドア用テーブル『TABLEX(テーブレックス)』の販促活動を展開。支援終了後、一度インタビューさせていただきましたが、事業はその後どうなったのでしょうか。再び、代表取締役の喜井さんにお話を伺いました。

状況を冷静に判断し、シフトチェンジへ
喜井さんが立ち上げた新規事業『ATTA-TOSA FACTORY(アッタトサファクトリー)』は、社内の新商品開発プラットフォームです。社員が誰でもアイデアを発表できる場であり、専用のwebサイトでは、さまざまな新商品のアイデアを見ることができます。
常磐精工オリジナルのアルミフレームを使ったアウトドア用折りたたみテーブル『TABLEX』は、商品化第1弾として2023年に発売されました。

「『TABLEX』は常磐精工にとって初めての消費者向けの商品でした。商品はできたものの、販路開拓がまったくできていなかったので、テイクオフ支援を活用してアウトドアの展示会に出展するなど、いろいろと試しました」
前回のインタビューでは、リリース時にアウトドアブームが下火になったこともあり、思うように販路開拓が進まなかったとお話しされていた喜井さん。
その後は冷静に状況を判断し、「たまたま第一弾の商品がアウトドア商品だっただけで、『ATTA-TOSA FACTORY』はアウトドア用品を作るブランドではないんです。アウトドア業界に固執する必要はないと判断し、積極的な販路開拓はストップしました」と話します。
『ATTA-TOSA FACTORY』の目的は、プロダクトを売ることだけではありません。真の狙いは2つあると喜井さんは言います。
「1つは、社員にものづくりの醍醐味である『自分のアイデアを形にしていく』体験をしてもらうこと。2つ目は、オリジナルのアルミフレームを使って、いろいろな商品が作れると社外にアピールすること。その結果、OEMや試作開発を受注することが狙いです」
実際に狙いは的中し、すでに自動車用のアウトドアグッズや防災ポシェットを入れるための専用什器の試作、クリーンルームの骨組み制作など、さまざまな案件の獲得につながっているそうです。
新規事業がもたらしたもの
『TABLEX』以降も、『ATTA-TOSA FACTORY』の活動は続いています。
2024年には第2弾として、インテリアとしても活用できるおしゃれな懸垂マシン『BEGINNERS RACK(ビギナーズラック)』を商品化。

「『BEGINNERS RACK』は堺市のふるさと納税返礼品として人気なんですよ。結構、売れています」と喜井さん。
自社商品開発以外にも、オープンファクトリーやワークショップといった活動を続ける同社には、能動的な人材が集まるようになりました。
「ワークショップをやっているおかげで、Googleの口コミがとても良いんです。そういった口コミやインスタグラムを見て入社してくれる人が増えて、以前とは違う新しい人材が集まってきている感覚はありますね。やっぱりアイデアを出してくれる人がいないと、会社の成長が止まってしまいます。もちろん、全員が商品開発をするわけではありませんが、業務でも自主的に他の人の仕事を覚えたり、多能工化が進んでいます」
皆が積極的に担当以外の仕事も覚えた結果、急な休みや有給取得が当たり前の社風になったそう。
「能動的な人を増やしていくには、やっぱりチャレンジできる体制がないといけない。商品開発は、そういった体制があることをわかりやすく伝えるフックとしても機能していると思います」
「大阪」を生かしたビジネスモデル
コロナ禍以降、右肩上がりで成長を続け、賃上げも実施している同社。しかし、人件費や原材料費が高騰している昨今、喜井さんは「人も土地も高い大阪でものづくりを続けていくには、地の利を生かしたビジネスモデルを組まないと生き残れない」と考えています。
「大阪のメリットはアクセスしやすいということ。実際に工場に来て実物を見てもらって、そこで商談しながら試作や開発をするようなものづくりをやっていきたいですね。ゆくゆくはオープンイノベーションのような形で、スタートアップや大企業の社内ベンチャーと組んで新しい商品を生み出していきたいです」
特に、出資を受けて開発資金があるスタートアップ企業にはメリットが大きいと話します。
「たとえば1つだけサンプルを作りたくても、なかなか頼めるところがありません。技術力もないから、自分で作るのも難しい。常磐精工にはCADも材料も工場もありますから、鉛筆でラフさえ描いてもらえれば、うちで設計して実物を見てもらうことができます」
そのためにも、いろいろな業界や立場の人とマッチングする機会の創出が課題の1つです。
「僕自身が事業を承継したアトツギなので、アトツギの人たちとのつながりから仕事をいただくことがあります。そういった仲間内のつながりも良いのですが、いろいろな業界や立場の人と垣根なく集まれる機会を作れたらいいですね」
『TOKISEI』ブランドの確立を目指して

新規事業については、これまで通りオリジナル商品の開発を続けていきたいと話す喜井さん。
「商品開発で大儲けしようというよりは、せっかく常磐精工に勤めてくれたからには、自分で商品を考えて世に出して、それが売れていくという喜びを社員にも味わってもらいたいと思っています。ビジネスとしては、看板ではない試作開発などを新たな売り上げの柱にすることが目標です」
本業である看板事業の方でも、たくさんのアイデアを聞かせてくださいました。
「今、商品化しようとしているのは、胡蝶蘭の代わりに贈れる『ギフト看板』ですね。緊急時にストレッチャーに変形する看板『サポートサイン』を使った新たなビジネスも考えています」
さらに、『TOKISEI』ファンを増やすために、保証の充実を視野に入れているといいます。
「たとえば会社の備品として看板を購入する場合、安い海外製の看板と、少し高いけど一年間の保証がつく看板を比べたときに、後者の方が安心して買えると思うんですよ。家電でも、無名の海外メーカーより知っているブランド商品の方に手が伸びますよね。同じように、『TOKISEI』だからという理由で選んでもらえるようなところまでもっていきたいですね」
取材後記
本業や新規事業以外にも、地域貢献として看板を使ったワークショップ活動を続けている同社。「大変ではないですか?」とお聞きすると、「大変ですが、何もやることがない中小企業の方が怖いですからね。元気なうちに新しいことにどんどん取り組んでいかないとシュリンクしていきますから」と力強いお答えが返ってきました。
「ワークショップをきっかけに少しでもものづくりに興味を持ってもらって、製造業に就きたいという人が増えたら嬉しいですね」と語る喜井さん。自社だけでなく、業界全体を考える広い視野で成長を続ける常磐精工の今後が、ますます楽しみです。
『ATTA-TOSA FACTORY』Webサイト:https://attatosa.com/
株式会社常磐精工株式会社
代表取締役|喜井 翔太郎
創 業|1967年
本社所在地|〒591-8001 大阪府堺市北区常磐町3丁19-3
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取材・記事|ヤグチサトコ

